保育士の待遇を改善することが抜本的解決であることは誰もが分かっているはずだ。なのに実現しない理由は、おそらく、それが長期的には不合理だと考えられているからだろう。
今後、子どもの数はどんどん減っていく。
国の予測(*1)によれば、1年間の出生数は、2010年に100万人を超えているが、2030年には75万人程度、2045年には60万人程度まで減る。
子どもが減れば、保育園の需要も減る。女性の社会進出が進むとしても、保育園を利用する子どもの数が増えるとは考えがたい。さらに言えば、これはあくまでも全国平均であり、地域によってはさらに急激に子どもが減ることもある。(*2)
いま保育士の待遇を改善すると、保育士を志す若者や子どもたちが多くなるだろう。彼ら彼女らが実際に保育士として就業するのは5年から10年後、定年まで働いた場合に退職するのは40年から50年後になる。特に公立保育園を運営する市町村にとって、人を一人雇うというのは40年計画である。いま保育士が足りないからといって大量に雇用すれば、彼ら彼女らが退職するまでに大幅な人余りが生じ、極端な場合には新卒採用をストップさせなければならなくなる。10年後に多くの新卒保育士を雇用することは、50年後までを見渡さなければなし得ない。
民間保育所を考えに入れても同じことである。おそらく、いま保育士の待遇を改善して若い保育士を増やせば、数十年後に深刻な保育士「過剰」が発生する。
そうなれば、長期的に有効な対策を打つことは下策、その場しのぎの対策を打つことが上策ということになる。
人口構造を反転させない限り、(*3)保育士の待遇改善は進まないに違いない。単にカネがないというだけの話ではないのである。
※1 出所:http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/sh2401smm.html
※3 それを目指すことは行政の役割だろう。しかし、だからといって実現可能性が低い未来予測をもとに政策を打つことはできない