4歳になる息子は、「大丈夫」と大見得を切っていたが、すごい内股を擦り合わせていたので、無理やり連れて行った。
妻はそれを見て苦笑していた。
それに伴って、1mmも進まない渋滞が発生した。
妻は明らかにいらいらした様子で、息子を叱り出したり、おれを叱ったりした。
渋滞がはじまって1時間ぐらいたったころ、妻は「次のPAまでどれぐらいかかるか?」と聞いてきた。
うーん。と答えあぐねていると、耳元で「おしっこにいきたい」と言われた。
なんだって?
路肩めいた個所はない。
また、規制解除されたら発車を余儀なくされる位置であり、降車はよくない。
「どれぐらいがまんできそう?」
「もう無理かも」
おしっこに関しては、もう漏らしてもらうしかない。非情な決断だ。
その上で、車内の被害を最小限にして、なおかつ妻のプライドをどうするかという問題なのだ。
あれを、妻の座る助手席にしこう。
次に息子だ。
おしっこ漏らす、漏らさないみたいな話は大好きなやつで厄介だ。
ようし。
「おい、妖怪ウォッチはイヤフォンつけてやれ」
「渋滞で止まってんだから、大丈夫だよ。あと、音量最大にすれば気持ち悪くならないし、臨場感が出るぞ」
「そうなの! やってみよう」
「あ、鼻にティッシュ詰めとくと、もっと気持ち悪くならない。あと、運転の邪魔だから、後ろ向いてやれ」
「あ、はーい」
降車して、ビニールシートをトランクから持ってきて、妻の座席に敷いた。
彼女は泣いていた。
情けなかったのだろう。
しかし、きみが泣くことはない。
プロポーズのとき、結婚のときに誓ったように、きみの笑顔を保証する。
妻には運転席に移動してもらって、おれはおしっこまみれのビニールシートが敷いてある助手席に移動した。
そして、おれもおしっこを漏らした。
妻は、「あなたバカね」と言いながらも、涙は消えていた。よかった。