http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130805/plc13080517300007-n1.htm
朝日新聞が麻生発言を歪曲し、麻生氏だけでなく日本を国際社会の笑い物にしようとした。という論旨のコラムだ。
いくつか突っ込みどころのある文章だと思う。
まず第一に、麻生発言を非難することは日本を国際社会の笑い物にすることには結びつかない。笑い物になるのはあくまで麻生氏個人に過ぎない。
例えば欧米でナチスを肯定するかのような発言をした議員がいたとして、そのニュースを見てその議員のいる国のことを笑い物にするだろうか。一人の発言から国全体を判断してしまうような態度はよほど差別的な思考がなければ難しいだろう。また、その議員にきちんと厳しい処分が下されたならばむしろその国に対して頼もしさすら感じるだろう。結局国全体が笑い物になるかどうかは周囲の対応次第だ。
そして第二に、麻生発言を最初に問題にしたのは朝日ではない。というか、朝日は既に発言が問題化したあとに追従するかたちでしかこの件を扱えていない。
麻生発言があったのは7月29日の夜のことだ。しかし朝日の紙面を見ると翌日30日と翌々日31日は朝刊夕刊ともに麻生発言については触れていない。デジタル版で「麻生 ナチス」で検索してみても7月30日31日の記事は出てこなかった。
麻生発言を最初に取り上げたのは8月1日になってからで、この日の朝刊では4面で『麻生氏発言に野党発言』との記事を発言の要旨と合わせて掲載しているほか、天声人語でも取り上げている。また夕刊では1面で『麻生氏、ナチス発言撤回』と報じ、2面に麻生氏のコメント全文とSWC副代表クーパー氏のコメント、3面にその他識者のコメントを掲載している。デジタル版に発言の詳細を掲載したのも8月1日だ。
一方他社は7月中に麻生発言について報じている。いくつか貼ってみよう。
麻生副総理 改憲でナチス引き合い、都内の講演で語る(2013年7月30日 01:10)
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2013/07/29/kiji/K20130729006320770.html
改憲巡りナチスを引き合いに 麻生副総理 (2013/7/30 2:15)
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO57891250Q3A730C1PP8000/
改憲「狂騒、狂乱の中で決めるな」…麻生副総理(2013年7月30日07時32分)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130730-OYT1T00050.htm
おそらく上の記事のいずれかでこの件を知ったという人も多いのではないだろうか?(ちなみに私の場合はスポニチでした)
朝日が報じる2日も前から麻生ナチス発言は知られていたのである。
そして、国際社会が麻生発言に反応したのも朝日が最初に報じるよりも早かった。
http://www.asahi.com/politics/update/0801/TKY201307310603.html
この記事によると、SWCが批判声明を発表したのが30日、韓国外交省報道官がコメントしたのが30日、中国外務省報道局長が談話を出したのが31日、ドイツ週刊誌が報じたのが31日となっており、いずれも朝日が最初に報じた8月1日より早い。そしていずれも麻生発言に対し厳しい態度を表明している。
つまり、朝日が麻生非難の論戦を貼る前から既に国際的に麻生発言は問題になっていたのであり、はっきり言って朝日がどのような対応をしたのかは現在の状況とほとんど関係がない。仮に朝日が麻生発言をスルーする、あるいは擁護する、といった態度を取ったとしても国際社会は麻生発言に厳しい目を向けていただろう。
朝日新聞が麻生発言を問題化しそれに国際社会が追従した、という流れではなく、国際社会が麻生発言を問題化しそれに朝日が追従した、というのが現実だ。
以上から、櫻井よしこ氏のコラムにおける「朝日は新たな歴史問題を作り上げ、憲法改正の動きにも水を差し続けるだろう。」「その朝日が再び麻生発言で歴史問題を作り出し、国益を害するのは、到底許されない。」といった記述は、事実誤認があるのか頭が悪すぎるのかはわからないが、とにかく意味不明というより他にない。