2024-07-02

疲れていた

女性には理解できないかもしれないが、男には不思議な時がある。

疲れていると性欲は自然と抑えられるが、疲れ過ぎていると逆に性欲が湧く時があるのだ。

一種生存本能というか、種の保存のようなものかもしれない。

その日、俺は疲れ過ぎていた。

数日ろくに眠っておらず、仕事決壊したダムの水の如く押し寄せてきた。

缶コーヒーを何缶も飲み干し、部下へ指示する場面も多かったのだ。

休まる時は少なく、常に気を張っていた。

会社を出たのは20時過ぎだった。食欲はない。少し前にコンビニおにぎりを二つ食べたせいだろう。

疲れていた。それでいて、不思議とムラムラしていた。30過ぎにもなって年甲斐もなく露出の多い女性が前を通ると勃起しそうになる。

俺は馴染みの店に寄ることにした。そこでいつもの嬢を指名し、身体を洗ってもらっている最中にも振り返って抱き着いた。

嬢は胸が大きく、俺の顔は嬢のおっぱいに挟まれた。柔らかく、間近で嗅ぐとベビーパウダーのような香りがした。

それからすぐにベッドに行って、いつものようにセックスを始めた。俺は仕事の疲れも忘れ、荒々しく、獣のようなセックスをした。

二度、射精した。一度は嬢が俺の上に乗り、二度目は正常位だった。

二度目の射精の瞬間、眩暈がした。目の前が真っ白になり、俺は倒れ込むように横になった。嬢は俺の後ろで息遣いを聞かせ、ゆっくり抱き着いてきた。

俺にはそれが溜まらなく鬱陶しく感じられた。そんな風に思うのは初めてのことだった。

一人にしてほしかった。ただ、一人で眠らせてほしい。心の底から、願うように思う自分がいた。

それに気づいて俺は愕然とし、怖くなった。その恐怖は影の中から浮き出たように俺の心へ纏わり、世界中で誰よりも孤独な瞬間のように感じられた。

愛しいはずの相手の傍で俺は殻に覆われ、俺は俺だけの世界の中に閉じ込めれらたような、そんな思いに駆られていたのだ。

ならいくらでも払う。だから、どうか俺から離れてくれ。

喉元まで出かかった言葉は吐き出せず、疲労で頭は回らない。

俺は体を丸め、じっとしていた。そのまま眠りそうになる。嬢が何か甘い言葉を言っていた。それも、耳には入らない。

俺は夢の中で泣きそうになるのを我慢した。いつから眠っていたのか分からない。

時間になって俺を起こす嬢は微笑んでいて、「目が赤いよ?」と言った。

仕事のせいだと俺は言った。

それはごまかしで、俺はセックスの中に孤独が潜んでいることを初めて知った。

店を出て、喧噪の中を歩き、路傍で若い男が女をナンパしていた。誰もが飢えているような目をしていた。

俺は途中で水を買った。今はそれだけで十分だったのだ。

俺は疲れ過ぎていたのだと思う。

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