2024-06-25

娘が生まれとき

本当に嬉しかった。

人生で一番嬉しかった。誇張でなく、偽りもなく、本当にそう思った。

まだ娘が小さかった頃、娘を抱き上げながらこの子の将来をよく想像したものだ。

しかし将来的には俺たちの元から去ってしまう。

それは必然で、仕方がないことかもしれない。けれど分かっていても寂しすぎた。だからいつ頃からか、このことを考えるのはやめていた。

娘は大病することもなく健やかに育ち、明るく、快活で、気配りの出来る子になった。

親としては健康第一。とにかく元気に育ってくれるだけでも十分だった。

俺にはもったいないぐらい良くできた娘で、妻に似て美人で、目に入れても痛くないという言葉意味を知ったのは親になってからだった。

娘が結婚することになった。

娘は幸せそうで、祝うべきことであるのは頭では分かっていた。

しかし心の何処かでは認めたくなくて、週末に娘が帰ってきて結婚式の話やら新居の相談をしに来ても、俺は娘と顔を合わすことが出来なかった。

その時ばかりは家を空けて外出し、行く当てもなく歩いてはパチンコ屋を目にして柄にもなく入って時間を潰していた。

正直五月蠅いばかりで全然楽しくはなかった。でもそうでもしないと、なんか向き合えなかったんだ。娘とも、自分の心とも。

夕方に戻るとまだ娘がいて、「今晩は泊まってく」と言った。俺は「そうか」とだけそっけなく言いながらも内心とても焦っていた。

逃げ場がなくなり、どうしようと思ってた。表情に出さないように必死で居た。

夕飯の席に座っても落ち着かない。

妻は台所に立ち、娘と二人きりの空間

娘は向かいに座って、そわそわしていた。俺は目を逸らしてじっと黙り込んでいた。妙に気まずく感じた。それはおそらく娘も同じだったと思う。

そんな時、妻が昔漬けた梅酒を持ってきた。ずいぶん年季の入った瓶で、「これは私たち結婚した時に漬けたものよ」なんて言いながら。

娘は驚きそして歓声を上げ、そんなのあったんだぁと楽しそうにはしゃいでいた。

妻が梅酒の瓶をテーブルに置くと俺の方を見て、目が合った。そして微笑んだ。

そのとき「あっ」と思った。まだ若かった頃、そして結婚したての頃。俺たちが二人暮らしを始めた記念に、この梅酒を作ったことを思い出したんだ。

まだ今のこの家を建てる前、ぼろいアパートで二人暮らしていて、娘を授かる前のこと。

当時を思い出して、なんか非常に懐かしく、温かい気持ちになった。

夕飯の後、娘が改まって急に「これまで私を育ててくれて、ありがとうございました。私、お父さんとお母さんみたいな夫婦になるね」なんて言うもんだから、俺は息を飲んだ。

それからすぐに目を逸らした。思わず号泣してしまったのだ。娘は本当に大きくなったんだなって、その時に初めて実感した。

妻はあらあらなんて言いながら娘の言葉に笑みを見せて涙ひとつ見せず、逆に号泣している俺を慰めてくれたりなんかした。

女は強いなって、改めて思ったよ。

娘が寝た後、本当に久しぶりに夫婦水入らずで夜遅く晩酌をした。

昔漬けた梅酒は妻と一緒に飲むと猶更美味しくて、涙を拭きながら「うめぇな」って俺は何度も呟いた。

妻はずっと笑ってた。

俺はなんだか自分がとても幸せなことに気付いてまた泣きそうになるのを我慢して梅酒を何杯も飲んで、これまでのことを走馬灯のように思い返していた。

酷く酔ってしまって翌日には歳に似合わぬ二日酔い。思わぬ醜態を娘に見せてしまい、大いに笑われた。

それでも笑顔で娘の門出を祝うことが出来た。娘は家を出るときにも笑っていた。

笑顔の絶えない家庭を作るのが夢だったことを思い出し、だから俺は本当に嬉しかった。

これで良かったのだと、今でも俺は思っている。

  • 3年ぐらいしたら離婚して戻ってくるから安心しなよ

  • もうちょっと独創性を発揮してほしい

  • ここ弱者男性が自分たちを正当化するコミュニティなんですわ

  • さだまさしかな?

  • ジジだけに都合の良すぎるそんな家族は存在しません。 普通に迷惑すぎるんですが……。

  • でも元増は童貞の底辺アルバイターなんだろ 俺たちと同じく妄想の世界だけが現実なんだろ そうだと言ってくれ

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