2023-09-30

実家ねこの話をしよう

実家ねこがそろそろ死ぬらしい。

19年も生きた。

人間でいうところの何歳と言っていたか

病名など無い、まさしく老衰で、

しかしだからこそ、ほんとうに、

もうすぐなんだとか。

19年も生きた。俺と4つしか変わらない。

気弱なねこだった。

うちに来た初日

ひと月早く来ていたメスねこに威嚇され、

小さい体をさらに小さく、

めいいっぱいにおびえていた。

後に嫁になるなどと、思ってもなかったろう。

どんくさいねこだった。

よく太り、運動はせず、抵抗もせず。

キャットタワーに上らなくなったのは、

後ろ足が弱かったからか、怖い嫁がいたからか。

まぬけねこだった。

自分に似た、色の濃い子猫を一匹、

嫁のもとから連れ出して、

乳も出ないのにおっぱいを吸われ、

キリっと誇らしげな顔をしていた。

穏やかなねこだった。

一匹残った息子につきまとわれ、

寝床は奪われ、嫁には殴られ、

それでも文句の一つも言わず

つの間にか下腹がはげていた。

静かなねこだった。

鳴き声どころか喉を鳴らすことすら稀で、

家の周りに野良猫が来た時でさえ、

尻尾を膨らませるのみだった。

不思議ねこだった。

あれほど活発だった嫁と息子に先立たれ、

どうみても不健康そうなおまえが一匹残った。

まり返った家の空白を埋めるように、

途端にわがままに、まぬけな声で鳴くようになった。

いねこだった。

たった一匹で、自由謳歌し、

図太く、しかしおだやかに

今年の冬が越せるかと、何度言ったかからない。

前に俺がひどく叱られ、反省のためにとおまえらトイレ掃除をさせられていた時期があったろう。

その時ほんとうに思い知らされた。

生き物を飼うのはめんどくさいし、きたないし。

俺は常々猫を飼いたいと言ってるが、

たぶん全部口だけだ。

まだおまえは死んでないのに、

どうしても涙が止まらない。

おまえは不幸じゃなかっただろうか。

不満はなかっただろうか。

苦しくはないだろうか。

『猫立入禁止』の5文字も読めないおまえに、

ほんの少しでも、感謝を、愛情を、

伝えられていただろうか。

おまえの嫁と、息子にそうしているように、

あいつはあんねこだったと、

きっとおまえの話をしよう。

からどうか最期まで、

おまえを愛する人そばで、

どうか、幸せに生きてほしい。

長生きしてくれてありがとう

今までずっと、ありがとう

  • 実家のねこの話をしよう|nkgd https://note.com/nkgd/n/nb9719c154481

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