2021-07-29

小川くんとキスをしていた話

高校の頃の同級生小川くんとは

ちょくちょくキスをしていた。

なんでキスをするようになったのかは

よく覚えてないんだけど

スキンシップの延長だったと思う。

小川くんは男なのにやたらと

手をつなぎたがる癖のあるやつだったんだけど

女子より顔立ちが女子美しい人だったので

そういった癖もなんとなく

容認してしまったというわけでもないんだけど

一度手をつないできたとき

うっかりと拒否しなかったら

そのあとも手を絡めてくるようになって

それを払いのけたら小川くんは

少し嫌な気持ちになるのではないかなあ

想像してしまったら拒絶することができなくなった。

から、僕は小川くんと手をつなぐことをよくしていた。

みんなで話をしていると、

さりげなく小川くんが手をつないでくるから

僕は小川くんが納得するまでされるがままにされていた。

なんでキスなんてするようになったのか本当によく覚えていない。

この事実自分でも信じられないことで、

僕が自身のことを信用できないことの根拠にもなっているのだけれど

とにかくどういう経緯で小川くんとキスするようになったのかはよく覚えていない。

だけどキスをしていたことだけは覚えている。

だいたい僕がトイレに行こうとすると小川くんがついてくる。

廊下に誰もいなければ僕の手に手を絡めてくるし

そうでなければ何でもない雑談をしながらトイレに向かう。

トイレに誰もいなければ小川くんは僕にキスをする。

誰かがいれば何でもない雑談をしながらトイレを済ませる。

これが基本パターンだ。

場所トイレだったり学食への渡り廊下だったり特別教室だったり

体育館だったりするけれど

やってることは同じ。

人がいないタイミング見計らって小川くんは僕にキスをする。

ただそれだけだ。

そんなふうに小川くんとキスするようになってからのある日、

小川くんに自宅で遊ぼうと誘われた。

僕が好きだったアニメを一緒に見ようとかなんとか言われたんだと思う。

そのとき僕は断った。

別に小川くんのことは嫌いではなかったけれど、

ちょっと流石に怖くなってきていたからだ。

から断った。

でもそれほど重大な決意をして断ったわけではない。

ちょっとその日は都合が悪いんだ、とそんな軽い感じで断ったのだ。

でも小川くんはそんなふうには受け取らなかった。

ひどく重大な拒絶であると、小川くんは判断したようだった。

そしてその判断は間違っていなかったのかもしれない。

自覚はなかったけれど小川くんとのことはもう限界に近づいていたのだと思う。

僕の答えを聞いたとき小川くんの表情は忘れることが出来ないすごく不自然な無表情だった。

そして、じっと僕の目を覗き込んできて僕の心を読み取っているようだった。

だけど僕は小川くんの目から小川くんの考えていることはわからなかった。

それから小川くんは手を僕の手に伸ばしてきたけれど

僕はそれをそっと無視して手を洗ってトイレから出ていった。

その出来事の後から小川くんは僕を見るときにはすごく無表情な顔をするようになった。

時折じっと僕の目を覗き込んでくることがあったけれど、

そんなとき僕は目をそらすようになった。

そして小川くんはキスをしてこなくなったし手をつないでくることもなくなった。

僕は正直いうと少しホッとして

小川くんが僕との距離をとるのに

まかせているうちに

学年が変わってクラスが変わって

少し経ってから小川くんが学校をやめたという話を聞いた。

小川くんがその後どうなったのか僕は知らない。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん