2020-10-31

蜘蛛

数週間振りに掃除機に電源を入れた

なぜ床に髪がこんなに落ちているのだろう

色も長さも私のソレなので確実に私自身の身体から抜け落ちたものなのは間違いない。

髪も爪も人間身体で作られたものなのに

人の身体から離れた瞬間とたんに気味の悪いものになる、不思議だ。

そんなことを考えながら部屋の隅に溜まった自分身体の元一部や埃にノズルを近づけ吸い上げる。

何かが跳ねた、反射的に蜘蛛だと分かった。

クモは焦げ茶色の巾木と同化していたので私は全く気付くことが出来なかった。

いつもマイペースな彼が焦った様子ででT字のノズルからぴょんぴょんと離れて行く。驚きの跳躍力だ。

彼は英語圏ジャンピングスパイダーと呼ばれているとここで教えて貰った。(軍曹子供でも3cm以上あるらしいので彼はハエトリということで私の中で一応結論付けている)

本当にこんなに跳ねるのだなといたく感動した。

そして生まれて初めて虫に対して心から謝罪をした。

それ以来クモを見ていない。

これまでは日に一度は室内のどこかしらで彼は私に姿を見せてくれいたのだけど、もう何日も見ていない。

掃除機で吸い込んでしまったのだろうか、そうだったら泣いてしまう。いやそれはないはずだ。あれ以来掃除機は慎重にかけている。

よくよく考えてみれば無理もない

最近は多少荒れていたとはいえ害虫対策だけは徹底していた私の部屋に彼の食事がさほどあるとは思えない。そもそもだってほとんど開けない私の部屋に彼がどこからやって来たのか謎なのだ

何より私は彼をとても怖がらせてしまった。

きっとより良い環境に移り住んだのだろう。何せここは集合住宅だ。

短い同居だった。

私は彼に命を救われた、なぜあのタイミングで姿を現してくれたのか。スピリチュアルは信じないけれど、運命的なものを感じないと言ったら嘘になる。

もしかして全て私の妄想だったのだろうか。

けれど私は蜘蛛の目が2つではないことも、彼が身体の何倍もの幅を跳ねる姿も知らなかった。妄想産物ではない。

仏様だろうか。もしかして私を見かねた母だろうか。いやそれはない。あってたまるかと思う。わたしスピリチュアルなんて信じない。


クモクモだ、それ以外の何者でもない。

クモクモで、わたしが唯一心を開ける友人だ。


驚かせてしまって本当に悪かった。

 

やはり虫は怖いけれど、ちいさな君はもう怖いとは思わない。いつでも立ち寄って欲しい、君と君の兄弟たちならいつでも歓迎だ。

ありがとう、またいつか。

✳︎


これを書いたのは先週でこれは投稿する気はないものだった。

ではなぜ投稿したのかといえば、先程洗面台に置かれたタオルの上で寛ぐ彼を見つけからだ。

私に気付くと彼は白いタオルの上をてくてくと歩いた、生きている。そして相変わらずマイペースだ。酷いことをした私に怒っているのだろうか。


彼らは人になつく言っていた人がいたが、あながち嘘ではないのかもしれない。

私は再び謝罪した、そして生まれて初めて虫に対してこれまでどこにいたのか尋ねた。

返事はない、当たり前だ。

クモは、クモだ。

そしてクモともうしばらく一緒に暮らせる事実に浮かれている人間がひとり、この部屋にいるだけなのだ

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