ALSで亡くなった女性は、単純に自分を殺害する依頼をした訳ではない
その裏には、深い深い苦痛があった。誰にも理解されない類の孤独が。彼女は心から、理解者を求めていた。
そして同時に、他者に自分を殺して欲しいと願った。殺害に関われば他人の人生を犠牲にして、多くの人へ自分の苦しみを印象付けられる。
だから、それの善悪に関わらず彼女は実行する必要があった。法で裁かれる事になったとしても、苦しみへの理解者はどうしても必要だった。
謂わば、依頼料の百万円は広告費用だ。ニュースを媒体にして更に憐憫を煽る。ただお悔やみを言われるのではない、世間に大きな一石を投じ、波紋を広げさせたかった。何人もの賛同者を、彼女の死を悼む人が欲しかった。それは、生前得られなかった莫大な憐憫だ。
自分の生に意味はなかったとしても、死には意味を持たせられる可能性がある。自然界で強者に食われるように、それが自然な事だとも考えていた。
この権力勾配に侵された社会を立証するのが自然な事だと。この情報化社会で、自身が一面を飾るなど有名人でもない限り滅多に無い事なのだ。
その為に医師という犠牲が必要だった。そうして、元厚労省出身というキャリア官僚の道を歩んでいた男は、女性との繋がりを得た。最終的に真の理解者ではなかったかも知れない。