昔A君という友達がいた。A君は日本人とアフリカ系のハーフだった。見た目は日本人離れしてたし、アフリカ系の名前を使っていた。A君は生まれも育ちも日本だった。人間性や語学力など諸々は日本人そのものだった。自分とは何一つ変わることのない日本人学生だった。A君は体格が良くて、バスケットボールが上手だった。しゃべるのが上手くて、面白いことをいっぱい言う人だった。クラスの中心的人物で、誰からも好かれていた。
一方の自分は日陰者で、A君が羨ましかった。ハーフであることもA君を引き立てる要素だと思っていたし、恵まれた運動能力にも嫉妬していた。
自分たちとは違って、外国の要素を生まれ持ったA君は、好奇の目に晒される瞬間があった。歴史や英語の授業で、A君の家族の国の出身地が出てきたりすると、みんながちらっとA君の方を見る。からかうヤツもいた。A君は笑いをとるのが好きだった。お笑い芸人のネタとかをみんなの前で平気で披露するような人だった。だけど、自分の人種が絡むことで笑いを取ろうとしたことはただの一度もなかったような気がする。もう20年も前の話だから記憶は定かではないけど、そんな気がする。その場をやり過ごそうとする、気まずそうな苦い表情ばかりが思い出される。いつもはケラケラ笑っているひとだったのに。
A君とは卒業後すぐ疎遠になった。大人になった自分の目線で、A君のことを想う機会がなかった。あんなにクラスの中心で輝いていたけど、A君は実は嫌な思いをたくさんしていたのかもしれない。ガキだった自分はただの一度もその可能性に思い至らなかった。
「差別をなくそう」なんて声高に叫んだことはない。だけどいま、恥ずかしくて、情けなくて、申し訳ないという気持ちが湧いてくる。A君に対して失礼なことをしてしまったことがあるような気がする。そしてそれをいままで気にせずに、のうのうと生きてきたのだと思い知る。
自分たちは、A君の強さに助けられていたってことではないのか。本当に申し訳ない。いまからでも、自分に何ができるか考える。あのときのA君のような苦い表情を浮かべる人が減るように。申し訳ない。申し訳ない。申し訳ない。
と言いながらハゲやデブを笑うのは別に悪いことだと思ってないんでしょ