2019-06-13

硫酸

顔に硫酸を被りたくないのは君が外見で他人差別してる証拠

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醜い生き物がおりました。

醜い生き物が子どもの頃、周りの子供たちは醜い生き物を虐めました。子どもは異質なものに対して残酷でした。醜い生き物は醜くない子どもたちを恨みました。

醜い生き物はやがて大人になりました。醜い生き物は人と仲良くなる方法がわかりません。

醜い生き物は何度も話しかけました。

何度も何度も何度も。

しかし皆んなは醜い生き物の言うことを取り合わず、次第に無視するようになりました。醜い生き物は醜くない大人を憎むようになりました。

そんな醜い生き物を可哀想に思う心優しい子供がいました。

の子供は、美しい子でした。醜い生き物の皺だらけの荒れた手を優しく撫で、醜い生き物のひび割れた声を優しく頷きながら聞きました。

の子供と醜い生き物は少しずつ仲良くなりました。2人でいろんな遊びをしました。いろんなところへ行きました。

醜い生き物は幸せでした。

ところがある日、醜い生き物がうちへ帰る途中、街の人がこんな事を言っているのを聞きました。

「見たか、あの醜い生き物。あの子供のそばにいるといっそう醜い」

「それ比べてあの子供の美しさ。醜い生き物の隣に並ぶと余計際立つ。」

その日の夜、醜い生き物はなかなか眠れませんでした。それは、あの子供に出会ってからははじめてのことでした。

醜い生き物は暗い部屋で、何度も寝返りを打ちながら考えました。

どうして俺は醜いのだろう

どうして皆は俺をいじめるのだろう

ーー

次の日、醜い生き物はなかなかベッドから出られませんでした。あの子との約束時間を過ぎでも、どうしても起き上がる気になれませんでした。昼過ぎにゆっくりと起きて、でも何もする気になれずに、一日を家で過ごしました。

その次の日もその次の日も、とても外に出ようとは思えませんでした。

そうして戸棚のパンが尽きた日、醜い生き物はしぶしぶ街へ出かけました。まるで、あの子供に会う前のようでした。

パン屋の店先で醜い生き物がパンを選んでいると、美しいあの子が歩いているのを見かけました。

醜い生き物は、会うのを躊躇っていた事も忘れて、思わず声をかけようとしました。

が、出かかったおはようを声に出すことは出来ませんでした。

の子は、知らない子供と一緒にいました。あの子と手を繋いで。

知らない子の隣で笑うあの子を見ると醜い生き物は胸がきゅーっと痛くなりました。

醜い生き物は、選んでいたパンを戻して、足早に家に帰りました。

の子にバレないように、下を向いて。

ーー

5日経ちました。醜い生き物は、家に少しだけあった食べ物を、少しずつ食べて過ごしました。あまりお腹は空きませんでした。カーテンも開けず、薄暗いままの部屋で醜い生き物は思い出しました。皆んなが自分のことを醜い、醜いと言っていじめた事を。もう誰とも話したくありませんでした。もうずっと家にいて、誰にも会いたくないと思いました。あの知らない子のことも、あの子のことも、街の人も、みんなみんな嫌いでした。

ーー

それからさら10日たった日、醜い生き物の家のドアがおずおずと開きました。暗い部屋に明かりが差し込み、そのわずかな隙間からの子が顔を出しました。あの子供は謝りました。何か、嫌な事を自分が言ってしまったせいで、醜い生き物が自分に会いに来なくなってしまったのだろうと。

の子は「仲直りしてほしい」と言いました。それに対して、醜い生き物は何故だかとても怒りを感じました。美しい子がきれいな声で優しい事を言う事が、たまらなく許しがたく感じました。醜い生き物のお腹の底に沈んでいた、黒くドロドロした澱が、心の全部を覆い尽くしました。

「お前は、俺ほど醜くないから、そんな事が言えるのだ」「本当は俺の事を笑っていたんだろう」「美しいのを自慢したくて、俺の側にいたんだろう」

醜い生き物の口から黒い言葉が次々と溢れました。あの子の悲しむ顔を目の前にしても、その感情を止める事はできませんでした。それどころか、悲しむ顔すら美しいあの子を見ると、より一層醜い生き物心は吹き荒れました。あの子は悲しそうに首を横に振りました。小さな声で「ちがうよ」「そんな事ない」と言いました。

から醜い生き物は言いました。「ほんとうに仲直りしたいなら、この硫酸かぶってからだ」

醜い事を笑わないと、醜いことは悪くないと、思うのなら、その美しい顔を捨てて、自分と同じになれるはずだ。さあ、早く硫酸かぶれ。

美しい子は戸惑いました。硫酸という毒を顔にかけるのは、とっても痛そうだと思いました。

「ほら、顔に硫酸を被りたくないのは君が外見で他人差別してるからだ。」醜い生き物は言いました。

その言葉に美しい子ははっとしました。美しい子のお父さんも、お母さんも、美しい子が醜い生き物と遊ぶのをやめるように言ったり、醜い生き物の話をすると眉をひそめたりした事を、思い出しました。「差別」という言葉を、まだ美しい子は知りませんでした。けれど、その言葉の持つ嫌な感じをずっと前から知っていました。

美しい子は毒の入ったコップを傾けました。

ーー

東の山の、向こうの山の、そのまた遠くの山奥に、2匹の醜い生き物がすんでいました。もう、ずーっと昔の話です。

  • この作文を書いた紙も劉さんが溶かす 無意味な理屈も解けて消えてしまえ

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