生まれて初めての彼氏ができてから一年半、夜寝る前のある妄想をしなくなった。
その妄想の中で私は幼女だった。色白で痩せていて、さらさらの長い髪を持つ幼女だった。
私は人のいない世界を旅していた。動物もいなかった。虫もいなかった。魚はいた。スーパーには肉も魚も果物も普通に並んでいた。
人がいなくても電車も車も飛行機も動き続けた。タクシーに乗って行き先を告げても車は動かなくて、信号待ちをしている車の屋根に登っておくと、信号が変わった時に動いた。
家には基本的に鍵がかかっていて入れないことが多かった。自動ドアは開いた。エレベーターも動いた。目を離した隙にコンビニの商品が入れ替わっていることがあった。
私にかかる重力はいくらか弱かった。スカイツリーのてっぺんから足を滑らせて落ちても怪我はしなかった。
私は汚れなかった。水の上を歩けたし潜っても溺れなかった。南極でも一定以上は寒くないし、真夏の砂漠でも一定以上は暑くなかった。喉が渇いてもカラカラにはならなかった。怪我も病気もすぐに治すことができた。一定以上はお腹も空かなかったし、食べすぎで苦しくもならなかった。トイレもお風呂も必要無かった。
デパートで可愛い服に着替えた。朝ごはんも食べた。本屋さんで座って本を読んだ。車に乗ってどこかに行った。ビルの屋上から他のビルにジャンプして行き来した。飛行機に乗って無理矢理途中で降りた。時計塔の針にぶら下がったり名画に触ったりお墓の上を渡ってみた。どこか知らない森を抜けた。海にも潜ったし砂漠に足跡も残したし草原で昼寝したし洞窟で雨宿りしたし満天の星空の下、湖でくるくる踊った。