父親が死んだ。ガンだった。
いずれにせよ長くないという事は多少聞いていたが、予定より大分早く死んだらしい。
私と父は全く険悪で、幼少期彼はろくに私と口をきかず私が受けている虐待にも気付かず
中学になるとあれこれ文句をつけはじめるが信頼関係が無いので既に拗らせている私とうまくいかず、
思い通りにいかなくなると頭に血を登らせて殺そうとする、自殺させようとする、交友関係にある者を悉く罵倒する等最悪オブ最悪の男だった。
まあ振り返ってみると母のメンヘラとの相乗効果という事もあり、彼単体は短気かつ人間らしさがいささか欠けていただけで悪い奴ではなかったと思うが、
古い言葉で言うモーレツ社員だったことに端を発するボタンの掛け違いからこんなことになってしまった。
私と彼がきちんと親しければ、家の中で互いを避けあうようなことになっていなければ、きっと彼の異常に気づけたと思うし、
そう考えると彼は結局私が殺したようなもので…まあ私が生まれたのは彼の行いのためなので…当然の報いとも思うのだがやりきれない。
彼は会社では恐ろしく優秀だったらしく、この間新幹線で死んでしまったあの人と同等かそれ以上に社会的に見た「価値」は高かったはずで
つまりどう考えても私が死んだ方がよかったのだ。
私なんか作らなければきっと死なないですんだのだ。
多分私が一生かけても彼の3年分の稼ぎも得られないだろう。
私なんか作らなければ、有能であることをもっと満喫できて、社会にも貢献出来て、全員幸福だったのに、
頭がよかったのにどうしてそんな馬鹿なことをしたのか。
遺品から出てきた予定表には退職後は家族を大切にしたいみたいな計画が存在したようで、どうしてそんな、馬鹿なことを、と思わずにはいられない。
死に損じゃないか。お前はそんなことをするべきじゃなかったんだ。足を引っ張る子供も妻も捨てて生きていくべきだったんだ。
どうして。
私は殺されれば満足だったのに。お前の正しさを示すために、過去の過ちとして粛清してもらえれば納得がいったのに。どうしてこの首にかけた手を緩めたんだ。
あるいはこの首に手をかけさえしなければ、死なないで済んだかもしれないのに。