中学一年生から、僕は個人指導でお馴染みのあの塾に通って英語と数学を三年間習っていた。
僕に英語を教えてくれていたのはK先生で、バイクで全国を旅してお城を回るのが好きな先生だった。(ガラケーで撮った写真をよく見せてくれたものだ)
僕も歴史は好きだったし、英語もわりかし得意だったので、K先生の授業が(それと雑談が)とても楽しみだった。
(K先生は大学生だったから、たまに授業を受けられないこともあって、その時は残念だったことを覚えている)
ある日のこと、どんな話の流れだったかは思い出せないが、K先生が僕に「テーゼとアンチテーゼ」の話をしてくれたことがあった。
今になって思えば、多分先生自身が授業で習ったことを教えてくれたのだと思う。
ノートの隅に図式でテーゼとアンチテーゼ……そしてもう一個ジンテーゼってのがあるんだよ。と書き込んでくれた。
僕はアンチテーゼぐらいまではなんとなく知っていたけど、ジンテーゼは聞いたことがなかったので、そんな言葉というか、概念があること驚いたし、「僕だけが難しいことを知っている」というちょっとした優越感も持つことができた。
もう10年以上前の話だし、その時説明してくれた言葉の意味については正直に言って覚えていないのだが、aufhebenと先生愛用のBIG(黄色い芯に青いキャップのボールペンだ)で書かれたドイツ語はとても魅力的に見えた。
僕は高校生の駆け出しぐらいまでその塾にいたのだが、中学校卒業間近ではほとんど会ってないような気がする。
「K先生は家庭の事情で退職されたよ。お父さんが病気で体調を崩されたらしい」と塾長が僕に教えてくれた。
先生とメールアドレス交換すりゃあよかったな、と少し後悔した。
僕は大学へ進学しドイツ語を学び、先生と同じように塾でアルバイトした。
あんまりアウフヘーベンと関係ないけど、今話題になってるのを見て、K先生も同じように「そういや昔、アルバイトしてた塾で中学生に説明してたな」と思い出していたらいいと思う。