某プロスポーツが好きで、数年前からとある選手を応援している。
小さな体にみなぎるガッツ、抜群の身体能力、ありえないタフさ。
決して主力選手とは呼べない地味な存在だが、気がついたら目で追っていた。
あるとき、遠方の試合会場でその選手の横断幕を振り回している男性を見つけた。
自分以外に、その選手を応援している人などついぞ見たことがない。驚いた。
驚きのあまり駆け寄って声をかけた。
話を聞くと、父親(以下選父)もまた、遠く離れた故郷から応援に駆けつけたという。
遠征までするファンに遭遇したのは初めてだと、それはそれは喜んでくれた。
固い握手を交わし、連絡先を交換し、ついでに何故か記念撮影までして別れを惜しんだ。
以後、試合のたびに選父と連絡をとりあっている。
自分が戦況を伝え、選父がこれに応じ、勝てば「乾杯」、負ければ「次は勝つぞ」と〆る流れ。
試合日以外に連絡することはまずない。
が、翌年の元日に年賀状が届いたときはさすがに驚いた(慌てて郵便局に走った)。
稀に、機嫌よく酔った選父が電話をかけてくることもある。
選手との面識が一切ないまま、選手本人をすっ飛ばして、その親族と懇意にしている。
冷静に考えてみると、まあまあ奇妙かつおもしろい状況だと思う。
念のため補足しておくが、選手本人とお近づきになりたい等の願望はない。
そりゃあ、もしもばったり遭遇することがあれば当然嬉しいだろう。テンションだって上がるだろう。
しかし「いつも応援してます」「ナイスプレーをありがとう」「頑張ってください」以外に伝えたい言葉がない。
試合の場で選手を見るのが狂おしいほど好きなだけで、他はわりとどうでもいいのだ。
むしろ、素は知らないままでいたいとさえ思う。観戦の妨げとなりうるノイズは可能な限り排除しておきたい。
このあたりの感覚を、選父が理解した上で大らかに接してくれているのだとしたら光栄に思うが
おそらく何も考えていないだろう。そういう飾らなさが大好きだ。
こんなにも熱く、そして暑苦しく選手について語れる相手はどこにもいない。
こんなにも嬉しそうに話を聞いてくれる相手は、選父しかいない。
なんと選父もやって来るそうだ。飛行機を乗り継いで。
この町に選父を迎えるのは初めてなので、とても楽しみにしている。
選手の出番はあるだろうか。あるといいな。勝てるといいな。
乾杯したい。エアじゃなく直に。