2014-12-30

保健医ライトノベル

ライトノベル、というジャンルがある」

保健医先生が言った。先生の長い黒髪さらり、と肩に落ち、羽織った白衣に黒い曲線を描いた。白衣の下に紫のセーターが覗いている。先生は続けた。

「それを好んで買い集めるものもいれば、嫌うものもいる。それを嫌う彼らにとっては、ライトノベル生理的に受け付けないのかも知れないな」

ストーブに乗ったヤカンがシューシューと音を立てている。保健室の窓から覗く外は、もう暗かった。

面白いと思わないか?ライトノベルを嫌う彼らは『自分ライトノベルが嫌いだ』と言って回るんだ。ネットにそう書き込んだりしてね」

先生の声は女性にしては、少し低い。でもそれは、先生の口調とよく合っているように思えた。

「でもね、本当にライトノベルに興味が無いのだったら、ただ無視すればいい。私にとっては駅前の『富士そば』が視界に入らないのと同じだよ。だが彼らは違う。ライトノベルは気持ち悪い、低俗ゴミクズだ、と声高に叫ぶんだ。いや、『叫ばずにはいられない』んだ」 先生の丸眼鏡から覗く瞳が、ぎらり、と光った。目の錯覚か、片方の瞳が赤色に輝いたように感じられた。


ザアッ、と強い風が吹き、窓から見える木が大きく揺れた。黄色味を帯びた年代物の蛍光灯チチチ、と点滅し、そして消えた。保健室は真っ暗になった。

やれやれ、これだから田舎は」蛍光灯の紐を二度、ガチャガチャ、と引っ張る音が聞こえた。

たっぷり5秒の間を置いて、蛍光灯が、ききき、きーん、と小さな音を立てた。蛍光灯が部屋を照らした。


蛍光灯の下にいたのは、先生ではなく、人でもない、

『何か』だった。

人のような形をしたその『何か』は、細い、黒いハリガネのようなものの塊だった。うねうねと蠢くハリガネに目を凝らすと、各々が形を持っているのがわかった。『保険医』 『黒髪』 『白衣』 ---- ハリガネの一つ一つが、文字を形作っている。文字記号の塊が集まって、人の形をして動いているのだった。馬鹿げたことに、文字記号はどれも明朝体フォントで書かれていた。

ハスキーボイス』 『男口調』 『紫の縦縞セーター』 …塊から覗く、どこかで見たことのある記号たち。記号が集まり人形となって、人のフリをして動いていることが急におぞましく感じられた。全身の毛がぞわり、と総毛立った。

「おい、どうかしたのか?」 塊が言った。動くたびに、がちゃ、がちゃ、と音が鳴った。塊がぐるり、とこちらを向いた。頭らしき場所にある『丸眼鏡』と『灼眼』の二つの文字がぶつかり、ギギギィ、と耳障りな音を立てた。

「顔が青いぞ。大丈夫か?」 塊の右腕らしきものがこちらに伸びてくる。腕には『実は主人公の事が好き』の文字が見えた。限界だった。もうやめてくれ、と叫ばずにはいられなかった。腕を振り払い、塊を突き飛ばした。塊は尻餅をついた。その拍子にぶつかったヤカンから、熱湯が飛び散った。


やれやれ

塊が言った。

「君はきっと『大丈夫』だと思ったんだが」 さほど驚いた様子もなく、塊は続けた。

「『視えて』しまうんだろう。私の姿が。残念なことだ」 塊は立ち上がり、ぱん、ぱん、と掛かった熱湯を払う。

忠告するよ。自分の体だけは見ないほうがいい。まだ、『ネタばれ』はしたくないだろう?」

塊がゆっくりとこちらに迫ってくる。とてもではないが、自分の体を見る気にはなれなかった。

  • 「ライトノベル」より「ライト・ノベル」のほうが気持ち悪いし 「タンスにゴンゴン」より「タンスにゴン・ゴン」のほうが気持ち悪いよな 中点で気持ち悪くなるのってなんで?

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