冒頭の一文で多くの人が察すると思う。
死と隣り合わせだったあの日を振り返ってみる。
夜行バスに慣れない人は一睡も出来ない場合もあるらしいが、マイスターの私はぐっすり眠ることができる。
しかしあの日は違っていた。
というのもまず、その日の私は昼から大量の酒を飲んでいた。
早めに切り上げたつもりだったが、乗車したころには既に二日酔いの症状が現れていた。
いつもとは違う。気持ち悪くて眠りが浅い。
うたた寝しては起き、うたた寝しては起きを繰り返す。
夜の3時ごろ、ガタガタガタっとバスが車線を踏む音で目が覚めた。
(ガタガタした車線のことをランブルストリップスと言うらしい、豆知識)
運転手の様子が明らかにおかしい。
歌っている。顔を平手打ちするような音が聞こえてくる。
大きな車体がふらついている。右に逸れて左に急ハンドルを切ったのがわかる。
瞬時に今現在置かれている状況を理解し、直感した、「こいつヤバイな」と。
「こうやって死亡事故って起きるんだな」
「死んだらニュースになるかな」
前方に座っていたため、恐怖はことさらに大きかった。
時計にチラチラ目をやったが全く針が進んでいない。
やがて4時ごろ、サービスエリアに着いた。
フードコート備え付けのお茶を飲もうとするが、紙コップを持つ手が震えている。
もうここで降りてやろうかと思った。
しかし同じ便に乗っているらしい人たちを見ると、何事もないようにリラックスしている。
後方に座っている人には歌声が聞こえていないのか。
熟睡している人にはふらついているのがわからないのか。
もう朝が近づいている。
目的地まであと少しだ。頑張ってくれ。
しかしサービスエリアを出発してからは例の現象は一つもなかった。
おそらく運転手が変わったのだろう。
私は安堵して爆睡した。
1回も目覚めることはなく、気がついた時には目的地に辿り着いていた。
そして何もなかったかのように(実際何もなかったのだが)解散した。
これが私の体験談。
今思えばビビりすぎていただけなのかもしれない。気づいていない人もいたくらいだし。
死亡事故がレベル10だとしたらこれはレベル7くらい。言うなれば予備軍クラスか。
「停まりましょう」と言葉をかけようとも思ったが、いかんせん被害が全くなかったので言うのをためらった。
初めて死を予感したというわりには悠長な考えをしていたもんだ。
こうやって体験談を書き出してみると、これは勇者になるべきケースだったと思う。
ちなみにこの1週間後二日酔いの状態で海に潜り、再び死を予感する。
なんでや! 運転中に歌ったっていいやろ!