1970年代の有名な作品で何度か借りたのですが、読みづらくてその度に挫折。先日ブックオフで入手したので再挑戦。いや~、やっぱり読みづらいわ(笑) 句点が多すぎるせいだと思うんですよね。
なので句点だけ調整してみました。ここを読むとライトノベルのようですね。
さて、何の作品でしょう。
「嘘だ!」 少女が鋭く叫んだ。「そんなの、作り話だ」
男はあっけに取られて、少女の顔を見た。
「どうしてわたしが嘘をつくんだね、○○○?」
「ふん、この○○○を馬鹿にして。自信を失わせて、怖気づかせようって魂胆なんだろう。 頭がいいだって? 勇敢だって? すごい力を持ってるって? 竜王だって? よくまあそんなはったりを。 ああ、お前は見てきたろうさ。竜が飛び舞うところも、■■■■の塔も。そりゃもう、なんだって知らないことはないだろうよ。ところがこっちはなんにも知らない。どこへも行ったことがない。
だけどね、おまえの知っていることなんて、みんな嘘っぱちさ。 ふん、おまえはただの盗人じゃないか。囚われ人じゃないか。 霊魂も持っちゃいない。二度とここから逃げ出せもしないくせに。 海があろうが、竜がいようが、白い塔がそびえていようが、そんなことが何になる。おまえはもう二度とそういうものは見られないんだよ。日の光も二度と拝めないんだ。
この○○○が知っているのは暗闇だけ。地下の夜の世界だけ。だけど世の中、ほんとうはこれだけしかないのさ。闇と静寂と、人が知るのはこれだけさ。おまえは確かになんでも知っている。この○○○はひとつのことしか知らない。だけどそれは紛れもない、たったひとつの真実なんだ!」
男はうなだれた。長い褐色の手は、静かにひざの上に置かれていた。○○○は男の頬の四すじの傷痕をあらためて見た。この男は、自分が闇の世界を極めるより遙かに遠く、広い世界を旅している。死についてだって自分より多くを知っているに違いない。にわかにこみ上げてきた激しい憎しみに、○○○は一瞬息がつまりそうになった。この男はなぜこうも無防備に、こうも毅然として自分の前に座っていられるのか。なぜ自分はこの男を片付けてしまうことができないのか。
「実はおまえを殺さずにきたのは、」 ○○○は突然、後先も考えずにしゃべりだした。「おまえに、妖術師の魔法がどんなものだか見せて欲しいと思ったからさ。こちらに見せてもらうものがある間は、おまえは生かしておいてやる。だが、無くなってつまらぬごまかしでもやりだしたら、その時は命はない。わかったね」
「ああ」
「よし。じゃあ、おやりよ」
~小略~
今度は、男が笑いだした。ふたりはひとつの命を、ボールのようにころがして遊んでいた。
「何を見たい?」
「何を見せられる?」
「なんでも」
「ほら、また! 偉そうに!」
「いや、」 少々癇にさわって、男が言った。「嘘じゃない。偉そうにするつもりなどあるものか」
男は頭を垂れて、自分の手を見つめた。五秒、十秒。何も起こらない。○○○のカンテラではろうそくが静かに燃え、鳥の翼をもった壁画の化け物たち――その目はくすんだ赤と白――は暗がりの中からじっと、ふたりを見下ろしていた。さらに五秒、また十秒。だがなんの音もしない。○○○は気落ちしてため息をついた。なぜか悲しかった。言うだけは言って、何もできないんだ。こいつは泥棒もろくにできない、人のいいホラ吹きにすぎなかったんだ。
「やれやれ」 彼女はついに声に出して、立ち上がろうとスカートをたぐりよせた。と、毛織りの布が妙な衣ずれの音をたてた。○○○はわが身を見なおし、とたんにはじかれたように立ち上がった。
何年もそれしか知らずに身につけてきた厚地の黒い衣は、あとかたもなく消えてなくなり、いつの間にか淡く、明るい夕方の空を思わせるトルコブルーの絹のドレスがその身を包んでいた。スカートはウエストから大きくふくらみ、ふくらんだスカート一面に細かな真珠や水晶の粒が、細かい銀の糸でぬいつけられてちりばめられており、それがまるで四月の雨を思わせて、きらきらと輝いていた。
「気に入ってくれたかな?」