2013-08-08

そっと、やさしく、抱いていて。

この世に生まれてから今まで、彼女というものができたことがありません。よくよく考えてみると、友人らしい友人も、できたことがないようです。というか、他人と仲良くなった、という経験が、ほとんど、いや、思い出せる限りでは、まったく、ありません。

中学校に通っていたような頃までは、なんとかそれでも生きていけたのですが、高校に入って、しばらく経った頃には、なんだか耐えられなくなってきて、途中で学校へ行かなくなったわけですが、問題は解決するどころかますます酷いことになっていきました。ひきこもりになったことで、ただでさえ少なかった、他人との会話が、激減したのです。ほぼ、ゼロになりました。たまに、親に連れていかれて、カウンセラーと話す以外は、全然、人と会話をすることがなくなりました。そのカウンセラーとの会話というのも、向こうが話すだけで、俺のほうは全然喋らないので、最早会話の体をなしていませんでした。俺は来る日も来る日も、ずっと部屋にこもっていました。当時のことを思い出そうとしても、うまく思い出せないのは、それほどに、日々何もなく、毎日が同じことの繰り返しであったせいだろうと、そう思います

病院でもらった薬も、睡眠導入剤以外は、なんだか飲む気になれなくて、狭く薄暗い部屋にこもりきりの生活は、一向に終わりが見えませんでした。そのうち、空想上のパートナー彼女でも、友人でも、ましてや天使妖精でもない、自分パートナーを、頭の中に作って、会話するようになりました。時に慰められ、時に励まされ、きっと俺は、このパートナーがいたおかげで、なんとか日々を渡り歩いていくことができていたのでした。

やがて、時が経って、俺は、再び、外に出て、そうして、学校に通うようになりました。当然のように、留年はしてしまったわけですが、それでも徐々に、ゆっくりとではありますが、他人とコミュニケーションをとることができるようになり、しばらくして、俺は、無事に、高校卒業することができました。

今は、普通に、人と会話をすることができている、と、そう思うし、特に、直面しているような問題もなく、普通に生活しています。たぶん、昔から、たいした問題など、一度として抱えたことはなかったのだと思います。ただ、うまく、人と親しくなることができず、それでたぶん、寂しかったのでしょう。寂しい、という言葉は、なんとなく、あまり安易に使いたくはないのですが、でも俺の、今までの、よく意味もわからない人生を振り返って、その馬鹿らしい道のりを、たった一言で言い表すとしたら、それはきっと、「寂しい」という言葉が、ぴったりなような気がします。

最近、また、この寂しさに、耐えられなくなってきました。人と、親しくなりたいのです。人と、触れ合いたいのです。欲を言えば、人を愛し、また人から愛されたいのです。多くの人が、当たり前のようにしているこれらのことを、なぜ俺は、一度足りともできないのでしょう。原因が、わかりません。わかりたいとも思いませんが、でもわからなければたぶん、何も変わりません。

運命の人。いればいいなと、心から思うのですが、おそらく俺にはいないような気がします。

きっと俺は嫌なやつなんだと思います。だから友人もできないし、恋人もできない。嫌なやつに、運命の人なんて、いないでしょう。嫌なやつは、永遠に嫌なやつなまま、嫌われて、避けられて、生きていくのです。

近頃は、例のパートナーは、ほとんど、姿を見せてくれません。でも、昨日、久し振りに、夢に出てきました。俺とパートナー、二人きりで、手をつないでいました。夢の最後に、パートナーが言った一言が、妙に耳にこびりついて、離れません。

「そっと、やさしく、抱いていて。」

何もかもを忘れて、諦めて、そうしてこの空想上のパートナーをそっと、やさしく、抱き締めたなら、そうしたなら、きっとそのとき初めて、俺は寂しさを忘れ、幸せになれるのかもしれません。

  • ぼくもその高みに登り詰めたいんですがなかなかいけません。 抱き枕とか空気嫁とかアニメやコミケを極めている人を2chやブログで見ると、うらやましく思えます。そこまで一人で...

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