2017-11-10

[] #41-1「注文の多い客」

料理店で金を払うとき、それは何に対する等価交換か、ちゃんと考えたことはあるだろうか。

ほとんどの人は料理飲み物だと答えると思うし、その認識別に間違っているってわけじゃない。

だが、この世には様々な価値がある。

俺たちは目の前の単純な価値に気がいって、それらを漠然享受しがちだ。

それら当たり前じゃないものが、当たり前だと思ってしまう。

その状態の俺たちは、いったい何を値踏みしているのだろうか。


ある日、タイナイと雑談をしていたら唐突に切り出された。

「マスダ、話は変わるけどさ、週末は一緒にランチでもどう? 僕の奢りで」

クラスメートの何気ない誘いだが、俺がその誘いをいぶかしく思うのには理由があった。

タイナイは、俺の知り合いの中で最もリアルネットが地続きの人間だ。

常にネット世界と繋がり続け、リアルへの原動となっている。

当然、その言動も紐付いている。

俺はその強固な繋がりを見て、いずれパソコンと融合するんじゃないかと、あらぬ心配したこともあった。

そんなタイナイからリアルでの誘いがあるということは、つまり“そういうこと”だ。

遊びの延長線上にランチがあるのではなく、それをわざわざ用事に挙げ、奢りを強調。

しかも昼飯休憩中という、未来食事予定なんて考える気のない、間の悪いときに。

ここまで懸案要素の材料が揃っていれば、何か裏があると考えるのは当然のことだ。

タイナイ、お前とはそこそこ長い。ただランチのために誘うような人間ではないことは知っている。明確な目的があるなら、ちゃん説明しろ。ましてや俺を巻き込むのならな」

「うーん、隠し事はできないか。といっても、わざわざ言うほどのことでもないんだけどね」

「それはお前が決めることじゃない」

「分かったよ。ほら、これが小目的さ」

タイナイはスマホ画面を見せる。

そこには料理店の情報がつらつらと書かれていた。

いわゆる“グルメサイト”って奴だ。

「それを参考にして店を選ぶってことか?」

ちょっと違うかな。参考にするんじゃなくて、参考にさせる側さ。僕はこのサイトレビュアーなんだ。こう見えて、そこそこ知名度ある方なんだよ」

から見れば大して意外でもないので何が『こう見えて』なのかは分からないが、話が少しずつ見えてきた。

「今回は複数人で利用したケースでレビューを書こうと思ってね」

「それで俺を誘ったと」

「確かマスダは飲食店バイト経験あっただろ。その視点から意見が欲しいんだ」

「なるほどな。まあ、お前が奢ってくれるのなら文句はないさ」

「よし、決まりだ。あ、そうそう、出来れば弟くんも誘っておいてくれ。子供目線での意見が欲しい」

このときの俺は、単にタダ飯を食らえる程度にしか考えていなかった。

ロクに分かっちゃいなかったんだ。

同じ世界にいても、俺とタイナイが見えている世界は、同じようで実は違うということに。

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