2024-08-16

トラ転失敗

トラ転をし損ねたことがある。

トラック転生。

現代日本とはかけ離れた世界で目を覚まし、なぜこんな場所に?と最後記憶を辿る。

蘇る光景横断歩道のど真ん中、爆走するトラックが目の前に……という奴である

あれは冬の夜のスクランブル交差点だった。

疲れ切った私が、ぼおっと信号機を見つめ、緑の光に吸い寄せられるようにフラフラと歩き出す。

すると視界の右端が眩く照らされた。

驚く間もなく足を止めれば、目の前をワゴン車が全速力で通り過ぎた。

私は呆然として立ちすくみ、信号機確認し、直角の位置に停車していた車を「おい、私今信号守ってたよな?」という目で見た。

程なくして歩行者信号が点滅し始めたので、足早に渡り切り、そのまま振り返らず家路に着いた。

一分にも満たない出来事だった。

だが、この十数秒が私を変えてしまったのだ。

あの時、銀色ワゴン車が目の前を通り過ぎたあの瞬間、私は、確かに落胆した。

「助かった」でも「危ない」でもなく、「あぁ、残念」と、思ってしまった。

仕事で疲れ果てた私は、確かに鬱々とした気分ではいた。

それでも明日更新web漫画や週末の友人との約束の方が大切だと思っていた。

徒に人生を投げ出すより、自分意志で積み上げることの方がはるかに好ましいと考えていた。そのはずだった。

だが蓋を開ければどうだ。

私はずっとこの人生を捨ててしまいたいと思っていたのだ。

それを自覚してしまったのだ。

今日食事は美味で、仕事は順調で、来月には旅行が控えている。

それはあの時、私があの一歩をとどまったからに外ならない。

例えあの一歩を踏み出していたとしても、より苦しむ未来になっていた可能性の方が高い。

だというのに、私はいつも、夜のスクランブル交差点で、銀色ワゴンに照らされたあの瞬間の中にいる。

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