およそ1ヶ月前、B男と他愛無い話をLINEでしていた時に、誕生日が祝日だったが、オリンピックで移動になった、と教えられた。
「そうなんだ。それじゃ19日が誕生日なの?」
「ふーん、そしたらお祝いしないとね」
少なからず好意を持ってる相手からお祝いして欲しい、と感じられる言葉にA子も満更でもなかった。
日にちが近づくにつれ、何をあげるか、何が喜んでもらえるか、考える時間も増えた。ただ、あげ方に少し問題があった。
A子とB男は住んでいるところがかなり離れている。このご時世、直接会って渡すことも難しい。知り合ったきっかけはゲームのコミュニティの関係であったこともあり、住所を聞き出すのも気が引ける。
A子は考えた結果、B男にショッピングサイトのほしい物リストを作ることを提案することにした。
「B男が欲しいなって思うものリストに入れて、その中から特に欲しそうなの選んで送るのはどうかな?それなら個人情報とか漏れないし。何が届くかは当日のお楽しみ」
「わかった。それじゃ作ってみるよ」
どんなものを欲しがるのか、全部はあげられなくても今後の参考にもなる。A子はしばらくB男からリスト共有されるのを待ってた。
そして今日の0時にいたる。
「誕生日おめでとう!」
「うん」
本当なら当日届くようにしたかった。何度か、リストどう?と聞こうとも思ったが、押しつけてしまう気がして結果当日までうやむやになってしまったのを、A子は少し後悔していた。
「忘れてた」
B男からの返信にA子は驚くとともに、心臓の奥がずんと重くなる感覚を覚えた。
「今、色々余裕がなくて」続いた言葉に、しょうがないと言い聞かせながらA子も文字を重ねていく。
「そっか。負担になっちゃったら元も子もないもんね。無理しなくていいよ」
「うん」
「せっかくのお祝いだから、なんか少しでもワクワクした感じであげられたらよかったけど」
一度、やるきのなくなったB男は対象のことに着手することはほぼないことを知っている。リストは諦めてギフトコードをあげることにした。
現金な渡し方になってしまうが、それでも何かお祝いを形にしたかった、なによりB男に少しでも喜んでもらいたかった。
「これで好きなものとか欲しいものとか買ってもらえたら。B男にとって良い一年になりますように」
しばらくして、ぽんと、メッセージの通知音が鳴る。
どんな反応かな、と期待しながら画面を開く。
続く言葉は何もなかった。
A子の顔は見えない。