宇宙に夜明けは存在しない。なぜなら地平線が存在しないからだ。
宇宙空間では、太陽は暗闇の中にポツンと存在する少し大きな光に過ぎない。真夜中の道路脇にある自販機の明かりを夜明けと思う人はいないだろう。
宇宙に夜明けが来ないなら、そこに浮かんでいる宇宙ステーションにも夜明けは来ないのだろうか。
宇宙飛行士は毎朝どのようにして起きているのだろう。朝起きて、太陽というには名ばかりの、暗闇の中の眩しい光を目にしたとき何を考えるのだろうか。私は知らない。
我々が宇宙ゴリラの存在に気づいたのはいつだったのだろう。明確に記憶している人はいない。
しかし、我々がその存在に気づくずっと前から宇宙ゴリラは宇宙にいたに違いない。
いつから存在していたのかなんて、宇宙ゴリラ自身だって知らないだろう。それは人類や地球の生き物がいつから存在していたかという問いと同じようなものだからだ。
宇宙ゴリラステーションに起床アラームが鳴り響く時、宇宙ゴリラはまだ眠そうな目を擦りながら起きてくる。そして体操室で体操をするのが日課になっている。
私が「おはよう」と言うと、宇宙ゴリラは返事の代わりに満面の笑みを返して体操室へと入っていった。
宇宙ゴリラは人間よりも遥か昔から宇宙にいるので、宇宙での正しい暮らし方を知っているのだ。体操をするのもそれが理由だろう。
宇宙船の丸い窓からは地球と月と太陽が見えている。宇宙ゴリラはこれらを見て何を考えるのだろうか。
一度だけ聞いてみたことがあるが、曖昧な返事を返されただけだったので、少しがっかりした記憶がある。彼らにとっては暗闇に浮かぶ他の星々と同じように見えているのかもしれない。
朝の体操を終えて戻ってきた宇宙ゴリラは私の目の前にある椅子に座った。私はその筋骨隆々とした身体を何となく眺めていた。上腕三頭筋が盛り上がっている。
重力に耐えるために通常の三倍は鍛えているという話もあながち誇張ではないだろう。
私たちは未知のものを発見した時、しばしばその発見自体を特別なものだと思いがちである。
しかし、発見前でも発見後でも、それが存在しているという点では何も変わらないのだ。ただ我々の視界に映るようになったというだけのことである。
当たり前だが、宇宙ゴリラは宇宙ゴリラであり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
地球のゴリラに似ているからそうネーミングされたのか、 はたまた地球ゴリラの先祖が宇宙ゴリラなるものだったのか