2020-03-06

今年初めてマスクを買った日

今年になって初めてマスクを買った。買ったというか、買えた。

元々花粉症もなかったため、風邪ときくらいしかマスクをする習慣がなく、家にストックもない。今年に入ってあれよあれよとマスク店頭から消え、気付いたときにはすでに買うことができなかった。

手元にないものを着用できるはずもなく、ここ2ヵ月、ずっとマスクをせずに通勤していた。そもそも感染している人が飛沫させないことに意味があるという。予防効果があるわけではない。しかし、周囲の人は、マスクをしていない者が咳をしたら不安だろう。今年に入ってすこぶる体調がよかったこともあり、咳もくしゃみも一切なかったが、一分の隙も与えまいと、通勤中はじっと口元を結んでいた。しばしば、薬局コンビニに寄って売り場を覗いてもいたが、当たり前のようにマスクは置いていなかった。そもそも、皆開店前に並んで買っているのだ。独身の勤め人で、会社帰りにふらっと入店している自分が買えるわけもなかった。

そうしているうちに、次第に「もういい。自分マスクを着けない。熱や咳といった症状が少しでも出たら会社を休む。」という気持ちになった。マスクは飛沫を押さえるためのものだ。飛沫する咳もくしゃみもない以上、マスクはもうよいと思うようになった。むしろマスクをしているのをいいことに、人ごみで口元を押さえずに咳をする人を引き気味に見ていたくらいだ。そして、朝からドラッグストア行列している人たちを見て「寒い中並んで、あの方が身体に悪かろうに」と思っていた。

今日、帰りがけにコンビニに寄った。酒を買いたかったのだ。入口すぐ脇の空っぽマスク売り場を横目に「相変わらずないねえ」と通り過ぎようとしたとき、隅の方のフックにひとつだけ、マスクが掛かっていた。そのとき、すっと手が伸びてマスクをとっていた。自分は、コンビニマスクと酒を買った。

支払いを終えた時、正直な気持ちとしてうれしかった。しかし、そのうれしいという感情がわいたと同時に、そんな感情を持った自分を、ひどく卑しくさもしいと思った。「さもしい」という言葉をいつ学んだか記憶にないが、まさに「さもしい」であった。あさましくて、みじめで、卑しい、そんな気持ちになった。「いらない」と思っていたのに、いざ目に入った瞬間に手を伸ばした自分。強がっていたのに、手に入ったときにうれしいと思った自分

まさかこの年になってそういう気持ちになるとは思わなかった。はやく今のような事態収束すればいいなと願うばかりだった。

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