「らそつ」
僕は警察署の取調室でボソッと言った。すると取り調べにあたっていた警察官は怒鳴り声を上げた。
「いま何て言った。知らねえと思っているのか。巡査って意味だろう。俺を下っ端だとバカにしてんのか。」
警察官なんてDQNのなるものだと思っていたが、傷害事件を起こして取り調べを受けてみたら、大卒の警察官というのはMARCH卒くらいがなるクソ公務員なのだと思った。
僕は真面目にお勉強をしていた連中より高尚だと思って「邏卒」と言ってみたが、まさか知っているとは……。
「いちいち怒鳴らないでくださいよ。人権侵害だ」
「そこまでバカにするのか。左翼だって逮捕されたら人権侵害だ、人権侵害だと言うだろう。なぜ僕だけいちいち怒鳴られなきゃならないんだか分からない」
怒鳴られることについてはしばらく前に弁護士に言ったが「大変ですけれど頑張って下さい」とだけ言われて終わりだった。友達の鰯野は反戦デモの最中に警察官の前で性器を露出させて逮捕されたのを散々自慢している。クソッ、コネがないと人を殴っただけでこんな目に遭わされるのか。
「人を殴って取り調べを受けているのに『邏卒』とか警察を舐めてるだろ。どんだけ反省してないんだよ。自分だけが怒鳴られるとか被害妄想にもほどがある。それとな、取り調べが人権侵害だと申し入れする左翼はいるが、それで取り調べが緩くなるとでも思っているのか。それも申し入れは警察という組織に対してするもんだ。俺はその窓口じゃない。俺を牽制するために人権侵害だとわめいても何も変わらないぞ。」
僕は警察官の胸ぐらにつかみかかろうとしたが、払われてあっという間に床に組み伏せられた。僕のメガネが床に落ちて割れた。
「自分から人権侵害だと言っておいて反論されたら人権なんてクソ食らえと言って警官に手を出したか。貴様のその思想は絶対に許さん」と警察官は言った。