2019-07-19

ホイミ

とある国の離島に行った時の事だ

そこではまだ呪術が信じられていた

その島の宿に

独りで泊まっていたのは

僕だけだった

他は若者グループカップル

そしてリタイアした年配カップル

宿の主人は僕のことを大層心配してこう言った

「いい呪術師を紹介してやる」

連れて行かれたのは

森の中にある古びたボロボロの木製の家

部屋の壁には角のある動物の骨と

乾燥した草で作られた服らしきもの

やたらにカラフルな大きなお面

フードをかぶった

皺だらけのおばあちゃん

さな骨を転がした後に

難しい顔をして言った

「アンタには癒やす力がある」

日本に帰って日常に戻りつつあった時

その言葉をふと思い出した

 ふふっ、癒す力だって

 例えばこんな感じかな

道路に静かに

腹を見せて転がっていたセミを掴み

口元まで持っていって小さく唱えた

 「ヒール

するとどうだろう

セミがいきなり羽をバタバタさせ

ジジジと鳴いて飛び立っていった

え?

いやいや、たまたまでしょ

しばらく歩くと

またセミが転がっていた

同じように唱えた

 「ヒール

セミはまた動き出して

ジジジと鳴いて飛び出していった

間違いない!

僕には癒やしの力がある!

興奮した

僕にもこの世界役割があったのだ

興奮が冷めやらぬまま

駅に辿り着くと

ポンッと肩を叩かれた

振り向くとまだ若い女性がいて

あなたの為に祈らせてください」

そう言って目をつむり

僕の額に手をかざした

なんてことだ!

こんな所にも癒やしの力を持つ人が!

僕の同志ではないか

ここは僕も癒やしの力が使えることを

見せてあげなくてはいけない

きっと同志が見つかって

彼女も大喜びすることだろう

僕は彼女の額に手をかざし

大声で叫んだ

ヒール!」

だけど何だか物足りない

人間相手だともっと大きな力が必要なのか?

きっとそうに違いない

僕は駅の広場に響き渡る声で叫んだ

何度も何度も

「ヒィィーーールゥーーー!」

「ヒィィーーールゥーーー!」

「ヒィィィィィルゥゥゥゥ!」

彼女は元気になって

エネルギーが満ちたのか

顔を真っ赤にして立ち去っていった

すごい!

この力をもっと

皆に分け与えなくては!

広場を見渡すと

他にも手をかざしている人を見つけた

あんな所にも同志が!

嬉しくて満面の笑みで

早足で近付こうとしたら

手をかざしていた人が

こっちを見た途端

駅の中に走り去ってしまった

ああ

僕がまだ力不足に見えたか

避けられたのかもしれない

次回こそは僕の真の力を見てもらおう

そう思って何度も駅の広場を訪れるのだが

彼らは二度と現れなかった

  • ホイミ使うやつってヒールって言ってんのか? ホイミって言うもんだと思ってた

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