2018-09-04

イキりました

死ね! 外道勇者!」

振り下ろされた斬撃は、なるほど、確かに速かった。

甲高い金属音が鳴りひびく。

俺は、頭上に掲げた剣で相手の一撃を受け止めていた。

「なんだとっ!?

聖騎士ってのがどんなもんかと思ってみれば……がっかりだぜ」

貴様っ! 我らを侮辱するか!」

怒りに顔を赤く染めた聖騎士が剣を振りかぶる

「この技の前に散れ! 聖秘剣――胡蝶の剣舞バタフライスティンガー)!」

雄々しく振り下ろされた刀身がにわかにかき消えた。

――殺気。視認するよりも先に、肌に触れる。ひりつくような無数の気配。全身にまとわりつく。周囲から無数の斬撃が迫ってくる。

なるほど、そこらの下っ端兵士とはわけが違う。流石は聖騎士様だ、単なる剣術には飽き足らず、こんな”曲芸じみた”剣舞まで扱えるのだから

十数合の金属音。俺は聖騎士が繰り出した斬撃の全てを、難なく受け切ってみせた。

馬鹿!?

顔色をなくした聖騎士が俺から大きく跳びのいた。剣を握る手が少し震えている。身体の重心も、心なしか退いた後ろ足に乗りかけている。なんとかこの場には踏みとどまろうとしているようだ。

矜持を捨てなかったことだけは、素直に誉めてやってもいい。

剣を片手にして、俺は無造作に前へと進み出る。一歩。また一歩。踏み出すごとに、聖騎士が一足二足後ずさる。

すでに勝ち目がないことは理解しているようだ。さぞ後悔していることだろう。向けてはいけない相手に刃を向けてしまったと。

しかしながら、もう遅い。自然と口角が吊り上がった俺は、少し身体を前かがみにさせて告げた。

「今度はこっちの番だ」

瞬歩の技法。十歩ほど離れていた獲物のもとへ一気に肉薄する。体勢の整っていない聖騎士に、まずは小手調べの一撃を。

「ぐっ!?

袈裟切りに振りぬいた一閃は、なんとか剣を構えた聖騎士に受け止められた。いい反応だ。それなりに基本はできている。が、所詮はそれなりにでしかない。

「おいおい、そんなんでこの先大丈夫か?」

二合、三合と斬りあいながら、言葉もなくじりじりと後退していく聖騎士に向かって声をかける。

「たしか、こんな風にやってたよな?」

俺は剣を振りかぶり、目にも止まらぬ速さで全方位からの連撃を放った。

「なっ! 貴様っ、この技はっ!」

「おまえがさっき見せてくれた一発芸だよ」

白刃が交わる。くりかえし、くりかえし。懸命に斬撃に食らいついてくる聖騎士は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

バカバカな! 俺がこの技を身につけるのに何年かかったと……」

「っていうか、こうしたほうが速いんじゃね?」

ひらめきを剣に。独自の足さばきを交えつつ、刃の軌道や返しを改善していく。剣と剣とが交りあう金属音が、高く鋭利ものへと変質しはじめた。

「く、俺より速いだと!?

「よく凌いではいるが、この程度か?」

さらに剣撃の速度を上げた。聖騎士の全身に大小様々な傷が無数に刻まれていく。

吹き出す血しぶきは地面に落ちない。剣風に巻き上げられて、聖騎士、もといエモノの周囲をうっすらと染めている。

赤い霧だ。徐々に、濃くなる命の霧。

このまま刻み続けていれば、いずれ失血で死にいたるだろう。だが、それまで待つのが面倒だ。

「ぐ、ぐううううっ!? バケモノめ、バケモノめえええっ!」

「終わりだ」

横一閃。ひときわ鋭く放った一撃が、聖騎士の剣を根元から斬り飛ばした。

ひゅんひゅんと回転する刃が、ふわりと宙を舞って地面に突き刺さった。

「ふぅん?」

妙な手応えがあった。何かしらの加護か、祝福を受けた武器だったのかもしれない。少なくとも、ただの装飾過剰な鉄剣というわけではなさそうだ。

ま、それもちょっと斬りにくかったって程度だけどな。

「で、殿下からいただいた聖剣が……」

聖騎士驚愕に染まった表情をしている。

相手が悪かったな」

にやりと笑って、俺は絶望に固まったエモノの首を刎ね飛ばした。



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