2018-06-10

旅行から帰ったらフライパンにカビが生えてた

一週間ほど旅行に行き、アパートを留守にしていたことがあった。旅行に行く前、問題フライパンはいつも通りコンロの上に鎮座していた。当時は自炊フライパンを良く使っていたので、調理をしなくとも常にコンロの上に置かれていた。特に特徴もない、表面が黒ずんだフライパンの上に、というより中に、蓋が置いてあった。もとは鍋蓋だったものが、大きさが丁度良いのでフライパンの落し蓋として使っていたのだ。そしてこれもまた同様の理由で、常にフライパンの中に置かれていた。旅行に行く前、フライパンの蓋の中には前回の調理の黒ずんだカスが少しばかりか、水分か、その程度のありふれたものしかなかっただろう。そして私は旅行に出発した。

一週間ほどして帰ってきて、部屋で一息ついた後、空腹を覚えた。午後も遅いが自炊できない時間ではなく、材料も帰る途中で買ってきてある。いつも通り調理のためフライパンの蓋を持ち上げようとしたとき、異常に気がついた。蓋がフライパンと密着して持ち上がらないのだ。蓋が開かないときは、調理中に材料が蓋の縁でくっついてしまうと有り得る。しかし今は、調理である。いったいフライパンの中で何が起こっているのか不思議に思った私は、力任せに蓋をフライパンから引き剥がした。そしてフライパンの中に見たものは―――

一面のカビの花であった。

いや、カビは花を咲かせないので胞子の塊と言った方が正しいだろうが、しかし目の前に広がる光景はまさしく花園と呼ぶに相応しかった。フライパンの中に、蓋の縁があったあたりからカビが青白く染め、中心部に向かっていくつもの放射状の茶色の花が成長していた。それは空中から無作為ブラウンシュガーを振り落としたかのようなカオスでありながら、ひとつひとつが花の形を保って生命を主張していた。一週間という短期間で行われた数多の生命の産声、競争、せめぎあい、その饗宴が一枚のフライパンの上で繰り広げられている現実に、私は眩暈を覚えた。私は恐る恐る茶色の花の一つに指を乗せた。花はいとも簡単に形を崩し、茶色の胞子が舞い上がった。そう、これがフィナーレだ。この一週間に行われた一世代の種の繁栄。それは次世代の花を満開に咲かせ、絶頂に達したあとその役目を終える。私は一つの生命歴史最後に加わることができるのだ。そのことにとらえようのない喜びを感じた。

このあとマスクをして洗剤と金属ブラシでゴシゴシ擦って洗った。

  • 何かにカビが生える原因はカビが近くにあるからなのだ だもんで真に洗うべきはもっと他のシンク下とかコンロやキッチンの裏とかそういうところかもしれない

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