彼は決して器用な人じゃなかった。それでも、仕事に一所懸命取り組んでいた、ように思う。
特に彼のダンスは自他共に認める実力であった。メディア露出も多く、演技の仕事もたくさんくるようになった。楽器もできるため、バンドパフォーマンスをすることも増えた。私は努力家な彼のファンであることを誇らしく思っていた。
しかし、そんな彼の才能と努力が仇となったのか、所属事務所にボロ雑巾のように使い回されるようになった。日に日にやつれていき、顔は骸骨のようにげっそりしてしまった。私は見ていられなかった。何度も泣いた。
余談だが、他人のことでここまで悩み傷ついたのは初めてだった。
その後、彼は長い間やってきたグループを抜け、違う道を歩むことになった。
メンバーが大好きで、ほっとできる場所で、最後の一人になったとしてもこのグループでいたい。そう彼は言っていた。
別のグループへの移籍は所属事務所が決めたのか、はたまた彼自身が決めたのか。私のようなファンには一生分からないことだろう。
ただ、私が好きだった彼は、有言実行する男だった。
きっとこれからも彼はいいように使われていくのだろう。金になるから、ビジネスだから。もしも彼が倒れたって誰も見向きやしない。彼の意思や感情なんてあってないようなものだ。
アイドルだって一人の人間である。ロボットではない。事務所における昨今のアイドルの扱いに、もっと危機感を感じるべきだと私は思う。
最近のアイドルには中高生の子も多い。その仕事を選んだのは彼彼女らかもしれないが、限度というものがあるのではないか。
アイドル戦国時代と呼ばれるほど熾烈なこの芸能界では、魅力的な子はたくさんいるし、これからも出てくるのだろう。けれど、私には彼しかいなかったように、ファンは応援しているその子しかいない。代わりなんてどこにもいない。消耗品ではない。