ついさっき面接でスカートをたくし上げてしまったという彼女のエピソードが流れてきたので書いてみる。
あれはまだ自分が社会人デビューしたての頃で、まだ彼女が目覚ましに出はじめて間もないころだと思う。
その女性が加藤綾子だということを知ったのは見かけたあとの話だ。
慣れない外回りに疲れた午後、目黒駅で山手線を待っているときに扉3つ分くらい向こうの並ぶ場所にスタイルが良くてきれいな女性が立ってた。
明らかに他とは違うオーラが出てて、理由もわからずに突然ドキドキしてしまったことを記憶している。
電車が来てしまったので最後に目に焼き付けようと思って眺めていると、急にこちらに向き直ったので目を逸らすのが遅れてしまった。
いつもなら睨まれるかすぐにつんと向き直ってしまうのだけど、彼女は違った。
はにかんだ笑顔で髪の毛を耳にかけながら軽く首をかしげるような仕草を見せたのだ。
当然こんな美人に知り合いがいれば覚えていない訳がない。
その仕草があまりにも美しくて、状況が理解できないまま電車に向き直ってそのまま乗り込んでしまった。
もちろんその日は仕事なんて全く手につかなかった。
得したような狐につままれたような、それが本当に現実だったのかも怪しい気がしてくるほどだった。
その疑問は翌朝すぐに解決した。昨日の美女が、朝の情報番組で初々しくも一生懸命にキャスターを務めていたのだ。
人間あまりにも驚くと口の中のものを吹き出すのだということを、人生ではじめて知ることとなった。
すでにメインキャスターになっていたにも関わらず1ファンを大切にしようと笑顔を返してくれた彼女を思えば、あのエピソードが打算や計算ではない彼女の素直さがそうさせてしまったのだろうことは想像に難くない。
あの時の彼女の芸術作品のような美しい姿は、一生洗わないと決めた液晶テレビの画面に張り付く米粒を見るたびに昨日のことのように思い出すことができる。