なぜだ。
俺の働きに何か不備があったのか。
これはさすがに少ない。
「オーナー。俺の給料を時給で計算してみたんですが、それだと800円になるんです。何か間違えてないですか」
「いえ、間違えていないわ」
「じゃあ、俺の働きに不備があったんですか」
「いえ、普通くらいの働き」
「いいえ」
何がどうなって俺の時給が800円なのだ。
「じゃあ、なんで」
「同じくここで働いている子で、その子は前の給料が時給換算で1000円。今回の君と同じくらいの働きね」
いきなり別の従業員の話をしだしたオーナーに疑問を感じたが、ひとまず話を合わせる。
「多いですね」
「その子が今回、1.5倍ほどの働きなの。だから、その子の時給を1200円にしたの」
前回が時給1000円相当で、今回がその1.5倍の働きだというのなら、1500円だろう。
それに、一体そのことが俺の時給800円相当と何の関係が……。
「……俺の時給を800円分にして、その子を1200円にすることで、相対的に1.5倍の働きということにしたと?」
「そういうこと」
側面的には、俺の200円分をその子に回したということでもある。
働きに応じた報酬を、こんな風に帳尻を合わせてくるとは思いもよらなかったからだ。
俺の働きは何の問題もないのに、他の従業員の方が俺より働いているから減っただと?
「そんな馬鹿な!」
「だからって俺のを減らさないでくださいよ。働きに支障がないなら、1000円にしてください」
「それじゃあ、1.5倍働いている子が報われないじゃない」
「その子を1500円にすればいいでしょう」
「資源は有限。そんなに労働力にお金を割くわけにはいかないの。1.5倍頑張ったからといって、店の利益が1.5倍になるわけではないもの。それでも相応の対価を支払おうとするなら、それは相対的なものにならざるを得ないわ」
だが、こちらもそんなことでは納得しない。
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