「じゃあ、相対的に増減するのはこの際いいですよ。でも納得していないことはまだあるんです。店長、これどういう見方で給料を決めているんですか」
「そうねえ、例えばあの子。決められた業務事態はキミと同じレベルのパフォーマンス。でも、あの子の方が人当たりが良いの。さて、給料はあなたと同じにすべき?」
「そりゃあ、業務に関係のない要素で給料が上がるのはオカシイでしょう」
「本当にそうかしら? あの子の人当たりのよさは、間接的に社員全体のパフォーマンス向上に貢献しているといえるわ。生産力も上がっているといっていい」
「いや……そんなところまで個別に評価していられないでしょう」
「働きに値する報酬を徹底するならば、そういう部分も含めて評価し、給料に反映すべきだと私は考えているわ。分かりやすい部分だけ評価して給料に反映させるなら、それこそ不当ではないかしら。そして評価とは比較の側面も持つ以上、私はこの配分について不当とは思わない」
このあたりで、俺は自分の給料が上がる可能性をほぼ諦めていた。
「キミ自身、改めて客観視してみなさいな。自分自身が、社内全体、なんなら社会全体を見渡して、どの程度の給料を貰えるに値する労働力なのか、成果を出せる人間なのか、本当にちゃんと考えたことはある? キミは自分の労働力が、自分の給料が、自分への評価が、“相応ではない”と本当に思えるのかしら」
タケモトさんの、あの時のリアクションを思い出す。
働きに応じてという文言に騙された。
いや、俺が良いように解釈しすぎた、というのがこのオーナーの主張なのだ。
頑張れば頑張るほど給料が増えるという考えは間違っていなかったが、間違いでもあった。
俺が頑張っても、他の人がより頑張っているならば、俺のは頑張っているとはいえないのだ。
2倍頑張れば2倍の給料を貰える世界、それはとても良いことだ。
けど、それで得をするのは“その世界で2倍頑張れる人間”で、そうじゃない人間は割を食わされるのだ。
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