今でも同じビデオ屋で働いている。
俺の意気消沈ぶりから、周りのバイト仲間たちは事情を察していたらしく、変な距離のとり方をしてくる。
「おい、マスダ。そこ棚が違う」
自分で思っていた以上にダメージが大きかったようで、つまらないミスをしてしまう。
指摘されてやっと気づくとは、我ながら呆れる。
やばい。
ここでの給料すら減らされる。
「て、店長、このミスは取り返すので、時給減らさないでください」
「何をテンパってんだ。取り返さなくても、ちょっとしたミスくらいで別に減らしたりはせんよ」
俺のその時の顔はかなり強張っていたらしい。
ただ事ではないと感じたが、いつも以上に店長は口調を穏かにして話した。
「なあ、マスダよ。確かにオレんところは、2倍頑張ったからといって2倍の給料を貰えるってわけじゃない。
だがな、0.5倍頑張ったら0.5倍になるわけでもないんだ。
お前より優秀な人間がいても、お前が必要以上に頑張らなくても、多少の個人差があっても時給980円なんだ。
調子が悪くて、平均以下のパフォーマンスしかできない時でも、よほどのことがない限り時給980円なんだ。
それは確かに“相応の報酬”ではないけれども、案外悪いことじゃないってのを分かってくれ」
まあ、俺は社会をそんなに俯瞰して見ることも、そのつもりもない。
別に頑張りを認めて欲しいわけではなく、お金が貰えればそれでいいんだ。
けど、このバイトの時給980円の重さを、俺は軽んじていることは改めようと思った。
もし、それが当たり前の世の中になったとき、自分の給料は今より増えると無邪気に喜べるだろうか。
実際問題、その“頑張り”を正当に評価できるかなんてことは分からない。
でも、仮にできたとして給料が増えるかどうかはまた別の話だ。
下手をしたら減るかもしれない。
しかも、その原因は自身の頑張りだけではなく、他人の頑張りも相対的に加味されて、配分されているとしたら。
他の人たちはどうだろう。
それとも俺みたいに減る方?
まあ、いずれにしろ、それは“相応の報酬”ではあるんだけどね。
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