2017-03-14

[] #18-5「俺の時給は980円」

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俺は結局、それから程なくしてそこでのバイトをやめた。

今でも同じビデオ屋で働いている。

俺の意気消沈ぶりから、周りのバイト仲間たちは事情を察していたらしく、変な距離のとり方をしてくる。

「おい、マスダ。そこ棚が違う」

自分で思っていた以上にダメージが大きかったようで、つまらないミスをしてしまう。

指摘されてやっと気づくとは、我ながら呆れる。

やばい

ここでの給料すら減らされる。

「て、店長このミスは取り返すので、時給減らさないでください」

「何をテンパってんだ。取り返さなくても、ちょっとしたミスくらいで別に減らしたりはせんよ」

俺のその時の顔はかなり強張っていたらしい。

ただ事ではないと感じたが、いつも以上に店長は口調を穏かにして話した。

「なあ、マスダよ。確かにオレんところは、2倍頑張ったからといって2倍の給料を貰えるってわけじゃない。

だがな、0.5倍頑張ったら0.5倍になるわけでもないんだ。

お前より優秀な人間がいても、お前が必要以上に頑張らなくても、多少の個人差があっても時給980円なんだ。

調子が悪くて、平均以下のパフォーマンスしかできない時でも、よほどのことがない限り時給980円なんだ。

それは確かに“相応の報酬”ではないけれども、案外悪いことじゃないってのを分かってくれ」

多分、店長なりの気遣いなのだろう。

まあ、俺は社会をそんなに俯瞰して見ることも、そのつもりもない。

別に頑張りを認めて欲しいわけではなく、お金が貰えればそれでいいんだ。

けど、このバイトの時給980円の重さを、俺は軽んじていることは改めようと思った。


2倍頑張れば2倍の給料を貰える世界

もし、それが当たり前の世の中になったとき自分給料は今より増えると無邪気に喜べるだろうか。

実際問題、その“頑張り”を正当に評価できるかなんてことは分からない。

でも、仮にできたとして給料が増えるかどうかはまた別の話だ。

下手をしたら減るかもしれない。

しかも、その原因は自身の頑張りだけではなく、他人の頑張りも相対的に加味されて、配分されているとしたら。

他の人たちはどうだろう。

の子みたいに給料が増える方?

それとも俺みたいに減る方?

まあ、いずれにしろ、それは“相応の報酬”ではあるんだけどね。

(#18-おわり)
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