僕は風邪をひきにくい体質だ。病弱そうな見た目の風邪をひかないタイプの人間だと思っていただきたい。
スポーツもあまり好きではなく、外出時は義父の車に乗って遠出をするので、怪我もしていない。病気も滅多にしなく、多少調子が悪くても軽い頭痛程度の私は、毎日毎日律儀に学校へ行った。おかげで一ヵ年皆勤まであと少しだった。教員に「努力すれば出来る子」としてみてもらいたいからでもある。
ところが、だ。
天国のような冬休みがあいにく終わり、始業式のためだけの儀式的な学校に行ってから、どうも調子がおかしい。気にせずその日は眠ったが翌日の朝、起きた時にはっきりと体がだるかった。布団を頭からかぶっても寒かった。吐き気がした。
僕はがっかりした。僕も風邪をひくんだな、と思った。僕は母に頼んで学校を休んだ。
学校を休ませてほしい、熱はないがはっきり体調が悪い。その言葉がさらっと出てくるまで何度か言い直した。一日休んだからといって学校での僕の立場が変わらないのは知っているが、皆勤を逃したくない、教員に「出来る子」と思われたい、という思想は僕を形作る大切な要素の一つで(僕はこの時それを初めて自覚した)、休みたい、というにはかなり葛藤した。
母は滅多に体調を崩さない僕の白い顔と、乾燥した唇からとぎれとぎれに漏れ出る言葉を理解し、はっきりと動揺していた。母は心配そうな顔をして、派遣先の会社へ向かった。
一人ぼっちの家の静寂に耐え切れなくて音楽を流した。P-modelのアルバムを、ずっとリピートで流した。3回目のリピートに入ろうとした時に、僕は卒業アルバムを開いた。
小学生の頃、今とは比べ物にならないほど体の弱かった僕は、1~2ヶ月に一度は風邪をひいて、学校を休んでいた。普段学校に来るな、と僕に吐き捨てていた同級生は僕が学校を休むとなに学校休んでんだよ、と言ってきた。
耐え切れなくなってアルバムをしまい、羽毛布団をかぶった。なに学校休んでんだよ、か。ひとりごちた僕は、何から逃げようとしているのかもわからないまま、布団の中でうずくまった。