「浮気ってさあ、結局どれだけ悪いことだと考えてるかで、するかしないか決まるよね」
と彼女が言った。
僕は、そうかな?と思いつつも黙って聞いていた。
「普通の人は例え脅されたとしても、そうそう道端で裸にならないじゃん。
でも浮気するってことは道端で裸になるよりも作業的にはずっと大変なわけよ。
道端で裸になるよりいけないことだと思ってたら、やめるタイミングなんていくらでもあるよね」
「うーん」
釈然としないままに生返事をした。
言っていることは合っているようにも聞こえるが何か重要な視点が抜けている。
何なのかは分からないが。
「で、あんたは浮気が道端で裸になるよりもましなことって考えてるわけだ。
道端で裸になるよりも人を傷つけてるのに」
いや、それは違うぞ。裸を見せられて傷つく人だって大勢いるんだ。
いや、そういうことを言いたいんじゃ無い。
僕は混乱してしまった。
彼女のよく分からない比較と、これから行われるであろう糾弾への怯えで。
彼女はじっとこちらを見つめている。
僕はそっと目をそらしながら落ち着け、と心の中で念じた。
そしてふと彼女の比較で腑に落ちないことが何なのか、気付いた。
そうだ。浮気はもっと衝動的な欲望に突き上げられてやるものだ。
「例えば、例えば道端で猛烈な便意を催してしまったとしよう。
でも決して道端で漏らすことが悪くないと思っているわけでは無いんだ」
僕は説明を始めて、何か道を誤った気がした。
「それで?」
「ふーん」
「と思う。だから浮気したのは漏らしてしまったようなもんなんだ。
決して悪いってことを認識してないわけじゃ無い」
彼女は変わらず真っ直ぐこちらを見つめていた。
「あたしが聞きたいのはそういうことじゃ無いんだけど」
「漏らしてしまったようなもんなんだ」
僕の声は少し細っていた。
「あんたの例えにのってあげるよ。じゃあ、道端で漏らすことと浮気すること、どっちが悪いことだと思う?」
でもまあ、この状況での答えは1つしかない。
「浮気だと思う」
「じゃあ浮気が出来るなら道端で漏らすことも簡単に出来るよね。
彼女の冷めた目が僕を見つめ続けていた。