2015-12-19

[] 承認欲求の森

第七七四部隊長 摩巣53様へ。

増田ねこの報、聞きました。ネコではなかったようで、残念でしたね。今度は良いしらせが聞けることを祈っています

私の弟、須田072は元気でやっているでしょうか。ご迷惑をおかけしていなければ良いのですが。私の部隊明日にでも《承認欲求の森》に入ります。正直なところ生きて帰れるかどうか……。弟によろしくお伝え下さい。私はお前を愛している、と。

2015-12-19 16:00 for mail

※※※※※

「満間隊長、ついに入りました。《承認欲求の森》ですよ」

部下の奈々詩が言った。

「ええ、そのようね」

私はズボンポケットから羅針盤を取り出した。方位磁針はくるくると止めどなく回転し、完全に方角を見失っている。

「恐ろしいですね。他者から無責任承認が、自分の本当に進むべき道を迷わせる。何千人もの増田承認欲求の虜になり、この森に姿を消した……」

奈々詩は道の先を睨みつけている。彼女の弟も承認欲求に足を掬われ、命を落としたのだった。森は霧で満ちている。少し息を吸い込んだだけで承認恍惚感に目眩しそうな、恐ろしい瘴気だった。

ふぇぇ……ふぇぇ……』

森の奥から、不気味な声が響く。私と奈々詩は熱線銃を手に持って、声の聞こえる場所へと慎重に足を進める。木々の切れ間から見えたのは、ふりふりのワンピースを来た中年男性増田だった。

ふぇぇ……ブクマが欲しいよぉ。ブクマカおにいちゃあん

中年男性幼女増田スカートをたくし上げて、自分の涙を拭いていた。上空では灼炎鳥(ホッテントリ)が喜々として飛び回り、獲物を喰らう機会を窺っている。

私は中年男性幼女増田に、銃口を向けた。幸いにしてまだ向こうはこちらに気がついていない。

「殺すんですか」

奈々詩はためらいがちに聞いた。

「ええ、それが増田のためよ。ブクマ中毒の末期患者がどれほどの悲壮最期を遂げるか、あなたも知っているでしょ」

もともと、自分の『名』から切り離された完全匿名空間は、承認欲求とは縁が遠い世界だと思われていた。増田であればスターの過剰摂取による食中毒も起こらないし、ましてや増田ブクマをつけようとする物好きもいなかった。いつからだろう、このセカイは変わってしまった。

さよなら

私は口を固く引き結び、銃の引き金を引いた。森にひとつの銃声が響き渡る。

増田探検隊第四十四部隊》の任務は、まだ始まったばかりであった。

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