近々今いるコミュニティを離れることになるので、みんなにご馳走してぎゃあぎゃあわあわあ楽しく飲んだ。年単位で所属していたところでもあるし、また、これから僕が行くところがだいぶん遠いところというのもあって、みんなほんとうに寂しがってくれるし、それでも喜んで送り出してくれる。いい仲間達。
そのなかに、特別気の合う子が一人いた。僕は男で、彼女は女。一緒に入ってきて、僕が先にいなくなる。最初はゼッタイ泣いちゃうから飲み会には参加しないって言ってたんだけど、結局来てくれて。でも昨日はみんなと騒ぐ日、だったから、特別話を出来るわけでもなく、終わる少し前に帰っちゃってた。ほんとに、なんでも話ができる子で、賢くて、素直で、仕事上のライバルでもあり、飽きることなく議論もできるし、不満があったらまっすぐ伝えられる、そんな関係を築いてきた。もちろん女性的な魅力もあった。好きだったか?と言われると、どうだろ。そう思わないようにしてきた、かな。彼女も慕ってくれてはいるけど、恋愛感情はなかったと思う。
なぜかというと、僕には付き合っている人がいるし、彼女も相手がいた。どちらも僕らが出会った時からだ。僕と恋人はそれなりによい関係を築いている。彼女も、まあそこそこうまくやってるようだった。少なくとも僕はそれを壊せなかったし、壊せると思わなかったし、そもそも壊して乗り越えようとも思わなかった。ただ、僕は遠距離だったので(だったのでって理由にならないけど)、その子と一緒にいる時間を、ときどき異性といる時間として感じていたのも事実。お互いに相手がいると、逆に安心して一緒にいられるのだと思う。
昨日の飲み会の話に戻ると、解散してから、僕は彼女に電話した。最後にどうしても会いたかった。とくべつ何をしようと思ってたわけじゃない、でもただちょっと近くに感じていたかった、というよりはもう少し積極的な感情があった気がする。飲み会がある前からもともと決めていたようにも思う、ひどく酔う最後の機会に、その力を借りて、会おうと。二人で会うこと自体は普段からあることだけれど、こうやって感情的に会いたいというのは特別なことだった。それでも電話をかけるのに躊躇はなかった。
結局会えなかったのだけれど。
電話はすぐ繋がった、まるでその電話を待っていたかのように。会いたいと伝えると、いったんいいよと返事があったものの、ちょっと言い淀んでいたので、都合が悪いかと尋ねると、じつは今日は彼氏がきちゃったからちょっと、と。
そっかそっか、それじゃまた今度だねって、じゃあ彼氏にもよろしくねと言って、電話を切った。僕はやっぱりほんのちょっとだけ、下心があったかもしれない。彼女の方はただ僕を慕ってくれているだけだから、二人の気持ちはもともとちょっとすれ違ってる。それは男と女の違いかもしれないし、僕がだらしないだけかもしれないし、分からない。それでも二人とも、また今度はもう二度と来ないっていう気持ちだけは、共有していたと思う。電話が切れる音が耳にいたかった。
どうして好きになってしまうのだろう。僕は、恋をするべきだったのかもしれない、盲目に。僕はいつだって恋をしていいと思っている。でも実際の人生は大抵それほどドラマチックではない。ドラマチックな人生はそのために壊れるものも尋常ではない。そして僕も例に洩れず、恋をしなかった。そしてそれはそれで一つのとてもいいこと選択だったと思う。いつ恋をするのをやめるかは、自分で決めること。それでも、こうして少し二日酔いの頭で、ぼうっとしていると――
この感傷も、すぐにながれて消えていくことは分かっている。僕はここを離れて、次の場所にいくことになる。昨日会えなくて、よかったのかもしれない。ここ数年を、ずっとぼくと一緒にいてくれて、ありがとう、それだけの気持ちをここにおいていく。