2018-04-14

[] #54-2「誰も期待していない宗教裁判

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「どこからそんな情報が? 寄付のものを募ったことすら一度たりとてありませんよ。金銭が少しでも絡むと悪目立ちしてイメージを損ないやすいですから、そういうのは特に気をつけているんです」

から見れば、さっきの布教活動自体も悪目立ちしているように見えるんだけど。

ともあれ、実際あの教祖寄付は募っていなかった。

それとも俺が知らないだけで、裏ではこっそりやってたりするんだろうか。

宗教なんてのは布団と一緒で、叩けば埃が出てくると相場が決まっている。

ハイク町の住人から報告があったんです」

ハイク町? 何かの間違いではないのですか?」

教祖は、その場所布教活動をした覚えがないらしい。

ちょっかいをかけられることに慣れていたので、教祖はそれをイタズラの報告ではないかと指摘した。

「連絡が一つや二つ、特定人物から来るようなら我々もマトモに取り合う気はなかったんですが……それが多数の人たちから、いくつも来ていましてね」

だけど、自治体だってそういったイタズラには慣れていたから、いつもなら建前上の対応をするだろう。

まり、わざわざ詰問するってことは、それなりの理由があるってことだ。

自分たちハイク町に赴いて、実際にその様子を目撃しているんです」

「なんですって!?

おっとお、これは決定的だ。

つの宗教崩壊する瞬間を目撃するなんて、今日は最高の野次馬日和だな。

「待ってください! 私は本当に身に覚えが……では、その頃の時間を言ってください」


話が進展していくにつれて、事態は俺が思っていたよりも複雑なことが分かった。

教祖はその時間帯、ハイク町ではなく、別の街で布教活動をしていたことが目撃者証言で判明。

自治体の組員は最初、その目撃者が実は信者で、口裏を合わせているのかもと疑った。

だけど生活教の信者は、教祖が不利になるようなことしかわずしかも内容は明らかにデタラメだと分かるものだった。

生活教の信者ほとんどが自称で、面白半分で入っている。

から信仰心はもちろん、教祖に対する尊敬心もなかったんだ。

それが結果として証言信憑性を増すことになった。

まりハイク町で商売紛いのことをしていたのは別人ということだ。

だけど、これで教祖への疑いが晴れたわけじゃなかった。

なにせハイク町で布教活動をしていた人物は、“生活教”を掲げていたからだ。

教祖が間接的に関わっていた可能性も、まだまだ捨てきれない。

それに、もし本当に教祖自身が与り知らなかったとしても、同じ宗教人間による行動であるとすれば、当然その責任は発生する。

教祖立場も、生活教も、依然変わりなく危機だってわけだ。

「これは実際に、自分の目で確かめなければ……」

教祖自分名誉と、生活教の名誉を懸けて、“自浄”の必要に迫られていた。

「疑わしきは罰せず」なんてのは司法国家の話であって、こういう事柄は疑いをかけられた側が晴らすしかない。

自分のせいでサイフから小銭がこぼれ落ちたわけじゃないとしても、落ちた小銭は持ち主が拾うしかないんだ。

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