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2018-01-20

愛されていたことに今更気付いた

じいさんは無口な人だった。水道工を定年するまでやっていて、頑固な職人気質

両親が共働きだった俺は保育所に通っていて、婆さんが迎えに来れないときはじいさんが会社マークの入ったオンボロ軽トラで迎えに来てくれていた。

小さい頃、俺はじいさんが苦手だった。じいさんからはいつもタバコ匂いがしたし、保育所であったことを話しても「ほうか。」「ほうね。」と一言二言しか返してくれないじいさんより、婆さんが迎えに来てくれればいいのにと思っていた。

じいさんは野球が好きで、オンボロ軽トラはいつもラジオがかかっていて、広島東洋カープ情報が流れていた。

ある日じいさんが珍しく「カープ練習を見に行こう。」となぜか俺を連れ出した。家の近くにカープの二軍練習場があって、そこに期待の若手が入ったらしい。

野球がよく分からなかった俺は苦手なじいさんと二人きりは嫌だなぁと思いながら、さりとて嫌だ嫌だと泣きわめくのもなんだか悪い気がして、大人しくじいさんについていった。4歳でも、それくらいの分別はついたのだ。

オンボロ軽トラで行った練習場で、カープの若手がノックを受けていた。カープと言えば猛練習の名の通り、動けなくなろうがノックさらされ続ける選手をみて、子どもながらに「死ぬんじゃなかろうか」と心配になったのを覚えている。

じいさんは珍しく「あのキャッチャーは凄い。」「よう打つ。」「凄い選手になる。」と教えてくれた。

野球にぜんぜん興味の無かった俺は、あまり気のない返事をしながら、隣の遊園地につれていってくれればいいのにな、と思っていた。

そのキャッチャーは、江藤智と言う選手だった。

去年、子どもが産まれた。とても可愛い絵本を読んであげると喜ぶ。

つの間にか立派なカープファンになった俺は、子どもカープファンにすべく英才教育を施そうと思う。

そうして初めて、俺はじいさんに愛されていたことに今更気付いた。

じいさんは孫を喜ばせたかったのだ。無口で、何を考えてるか分からないじいさんはじいさんなりに、俺を愛してくれていた。

自分が親になって初めてわかったとき、もうじいさんはこの世にはいなかった。

今なら分かる。4歳の子どもをじいさん1人でつれて歩くのがどんなに大変か。トイレ粗相をするかもそれない。目を離せばどこかに走り出すかもしれない。水分補給だって常に気にかけておかないといけない。そんなのを連れ出すのは60過ぎのじいさんにはきっと骨だったはずなのだ

もっとあの時喜んであげれば良かった。ぜんぶ今更だが。

じいさん、カープは強くなったよ。今年は三連覇出来るかもしれんよ。

愛してくれてありがとう。気付けなくてごめんよ。

 
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