シマウマの蹴りは肉食獣を撃退することもある(写真:Dziewul/PIXTA)
動物園で飼育されている動物は野生より安全と思われがちですが、飼育員や獣医などはつねに危険と隣り合わせです。また、旭山動物園元園長の小菅正夫氏は、「動物園の事故は初心者かベテランが起こすことが多い」「肉食獣より草食獣のほうが事故は起きやすい」と言います。いったいなぜでしょうか。
獣医でもあり、『角川の集める図鑑GET! 危険生物』の哺乳類・鳥類部分を担当した小菅氏が、国内外でヒヤリとした自身の体験談を語ります。
動物園で働いていた間、さまざまな動物の危険な側面を目の当たりにしました。特に自分は獣医だったので、動物たちを診療する際に、ひやりとすることが多かったです。動物園の獣医はもちろん、大きくて力の強い、肉食獣だって診なくてはなりません。
自分が旭山動物園に入ってすぐ、ホッキョクグマを治療することになりました。もちろん檻に入る前に、麻酔を打ちます。麻酔が効いて倒れて、もう大丈夫だなと確認をとって中に入ったのですが、治療を終えようとした頃、なんと眠ったはずのクマが起き上がるではないですか! 突然のことですごく慌てました。
「やばい!」と思い、いちばん安全なところはどこかと思って、そうだクマの背中に乗ってしまえば、抱きつかれないと思い、そっと背中にしがみつきました。クマは朦朧としていて、体をゆっくりと左右に揺らしていました。2歳の若いホッキョクグマだったのですが、当時の自分が乗れるくらいの大きさはあったんです。
クマの背中に必死にしがみつきながら、外にいる人に「追加の麻酔薬をとってきてくれ!」と叫びました。動物園で使用する麻酔薬は、最初から液体ではなくて、動物の大きさに合わせてその都度溶かさなくてはなりません。実際は2~3分だったと思うのですが、クマの背中で待つその時間の長いこと……。一生のうちでいちばん長く感じた2~3分でした。