クラス別の入浴時間は余裕のないスケジュールだったものの、私のクラスは理系で女子が少なかったため比較的ゆっくり風呂を使えた。
仲のいい同級生と一緒に小高い場所にある露天風呂で五分ほど湯につかり、室内風呂に戻る下り道の途中で、男性風呂の窓越しに同級生男子と目が合った。
彼は慌てて視線を外した。
当然、私たちは全裸、向こうも全裸だ。咄嗟にこれは事故だと思った。
どうしてそんな作りになっていたのか分からないのだが、女性風呂から露天風呂までの急な坂道が男性風呂から丸見えになっているのだ。
唖然としたが、悲鳴をあげることもなく私たちは何事もなかったかのように室内に戻り、慌ただしく着替えて次のスケジュールに移った。
私たちはこれは事故で相手も悪意があったわけではない、勝手に露天風呂に行ってしまった私たちが悪いと子供っぽい考えから口を噤んだ。
同級生の誰もこのことに言及しないまま宿泊行事は終わり、私の記憶も段々と薄れていった。
高校を卒業して相当の時間が経ち、今となってはあれが現実だったのかも疑わしい。
男性風呂から女性風呂の通路が見える構造だったなら当時でもすぐに問題になったはずでは?と思うが、その後特に問題となることはなかった。
あの衝撃が全部偽りの記憶だとは思えないけれど。
それにしても今になって思い返してみれば、見られた私たちも驚いたが、見てしまった同級生男子のほうが衝撃は大きかったのではないだろうか。
あれはいったい何だったんだ。