周りの博士学生は先輩も後輩も軒並み皆自分より優秀。肩身が狭かった。研究業績だけ見たら自分はゴミなのに、教授が自分を研究室から追い出さない理由がわからなかった。
そこで、自分の実家が経済的に裕福であることをにおわせて、教授に裕福な家の世間知らずのバカ息子だと思われるように仕向けた。無能でも、授業料払い続けて最低限の仕事をやっておけば、教授もわざわざ研究室から追い出そうとはしないだろう、と思ったからだ。教授に疎まれないように、できる限り本や論文を自分で調べて勉強して、なるべく研究室に行かないようにして存在感を消し、「こいつは無能だが、いても特に害はないし金持ちのバカ息子らしいから授業料周りでも手間にならないだろう」と教授に思われることによって、研究室にいさせてもらえるように画策した。
奨学金は一切申請せずに、博士課程の授業料を親に払わせた。国立大学だったので、どのみち、自分の親には授業料など大した金ではないことはわかっていた。確かに親不孝だが、有名私立の大学院なら授業料倍なのだし、そんなにひどい親不孝だろうか、親の金を数百万数千万円溶かすとか、もっと親不孝なやつはいくらでもいる、それよりはマシだ…と思っていた。
卑怯かもしれないが、研究は競争。頭いいやつが持って生まれた地頭を武器に戦うことが許されるなら、自分は持って生まれた裕福な実家を武器に戦って何が悪い、そう思っていた。
なんとか博士号を取って数年経ってみてわかった。全部不要な努力だった。自分の上下の代が、たまたま特別超優秀だっただけだった。自分は、実家の金に関係なく、全国の同分野の博士課程進学者の中では平均レベルの地頭だった。教授は、単に全くの無能ではないから研究室に置いていただけだった。