中学の時通っていた塾で、色白の美しい顔の男の子の後輩がいた。彼は、足が速く運動が得意なのだが、学科の成績が悪かった。普段から私や同級生の友人は彼の頭の悪さをイジっていた。彼は屈託のない笑顔でそれを交わしていたし、私たちもその関係が居心地良かった。
あるとき、そいつがどこまで根性あるか試そうという話を友人とし、塾の休み時間が来るのを待ち、実行に及んだ。友人が彼の体を羽交い締めにし、私は彼の眼球の寸前に尖った鉛筆の先端を突きつけた。怖がらせようとしたのだ。ビビらせて、その様子をあざ笑うのが僕らの想定だった。
しかし、彼は毅然とした態度で前を見据え、まったく怖気付く様子がなかった。想定とは完全に逆の光景だった。自分なら、恐怖に屈し、情けない顔をし、全身で嫌がり、バタバタともがいただろうに、年下のこの男にはまったくそれがなかったのだ。その時点で、私は男としての負けを感じた。それが猛烈に腹立たしくなり、どうだ、怖いだろう?なんならこの鉛筆を動かすぞ、と脅した。
それでも彼は力強い表情で、全然怖くない、と言ってのけた。なんだこいつは?くそう、本当にやってやる。私は鉛筆をブルっと横に震わせた。やはり、彼は怖気付く様子を微塵も見せなかった。
このままでは終われない。そう思った私は、逡巡した挙句、ついに数ミリ、前後に鉛筆を震わせてしまった。彼は悲鳴をあげ、うずくまった。友人は驚きの表情を見せていたが、私が青ざめた表情をしているのを見て、後輩に、お前が動いたからいけないんだぞ、と嘘を言って私の立場を守ろうとした。私は、なんてことをしたんだ、男として負け、あまつさえ、暴力を振るい、本当に怪我を負わせるなんて、こんなのは現実じゃない、自分はそんなことする人間じゃないんだ、ほんとうは、と、何度も現実を否定し、やがて頭が真っ白になった。
その日のその後のことは覚えていない。
後日、彼の目は幸い大事に至らず元に戻ったことが分かり安堵した気がする。
あれから30年ほど経つ。未だにそのことを思い出すたび、身悶えする。
せめて私は、罪の分だけ、なにかを為さねばならない、とは思っている。
一生許されないよ 償うことなんてできないよ 死んでも地獄を見ろクズめ
あなたは罪悪感を持たなくていいよ 新幹線でアスペに刺殺された東大君やこれまた交番でアスペに襲撃された警部補どののように あなたの過去の細やかな罪は長い時間で利子がつい...
なるほど、イジメとは現象だったんだな、自分の弱さを認められないわだかまりの発露としての。 社会が悪い。人は、愛で満たされていれば、他者を攻撃しようなどとは考えない。