精子の性能と、精子がもつゲノムの関連性は明らかでない。精原細胞が細胞質を共有していること、さらにヒストンがプロタミンに置換されることで新規遺伝子発現は高度に抑制されることから、運動性の高い精子から優秀な個体が生まれるという仮説には疑問の余地がある。ついでにいうなら、精子のもつ遺伝情報は個体を構成するには不十分であるということも、この論を否定する材料になるだろう。また、受精のプロセスにおいて、必要な精子は一つではない。卵丘細胞-卵子複合体を突破して透明帯に到達するには、少なくとも1000個の精子が必要であると考えられている。受精競争と社会での競争を比較するアナロジーは個人的には嫌いではないが、その本質は競争というよりはむしろ協力といえる。結論として、増田が優れた精子から生まれたという主張が仮に真実であったとしても、だから水泳が得意だというのはおごりでしかない。優れた競泳選手は競争の中で成長できることを知っているから謙虚なものだ。北島康介選手の名言を紹介しておく。