2年ぐらい前の話
上野駅始発の高崎線に乗ろうとホームの列で待っていた時、キョロキョロとあたりを見回している男がいた。
誰か連れを探しているのかなと、私はあまり気にも留めず、列車に乗り携帯を見始めた。
列車が走り始めてふと顔を上げると、先ほどの男が両手に吊革を持ち、私に背を向け少し反るようにして立っていた。
私はギョッとした。男のすぐ前に女性が立っていて、男の股間は女性のお尻に密着していたからだ。
恋人同士だろうか?いや、年格好も身なりもあまりに違いすぎる(男の年は50過ぎ。ゴミ捨て場から拾ってきたようなシミだらけのウインドブレーカーをきていた。女性は20代で身綺麗な方だった)
すぐにこれは痴漢だと考えた。なんとかしなくてはとも考えた。だがすぐには行動にうつれなかった。身動きできないほどの混雑ではないが「混んでいたので身体が当たっていただけだ」と言われたらはっきり言い返せるほど空いているわけでもなかった。
それとまかりまちがって痴漢の冤罪に加担してしまうのも怖かった。人との距離の取り方が一般的ではない人なのかもしれない。
女性が助けを求めるとか男が明らかに手で触るとかすればすぐに捕まえてやろうと見ていたのだが、そのどちらもなかった。
女性はときおり体をずらしたり少し移動して男から離れようとしていた。(そのように見えた)
男はその度に女性に合わせて動き腰を密着させ続けた。
しばらくそんな攻防が続いて女性が我慢の限界だったのか隣の車両に移動していった。さすがに男はそれにはついて行かなかった。
この時点でも男はまだ僕の中では限りなく黒に近い「グレー」だった。歯がゆいが、警察に突き出せるほどはっきりとした行動をしているわけではない。
なんとか白黒はっきりさせたい。
そこで僕は男を尾行することにした。
必ず尻尾を掴んでやる!
そうこうしていると、男が尾久で降りた。
ピンときた僕は男にバレないよう降り、あとをつけた。案の定、男は早足で車両の中を物色しながらホームを移動し、少し行くと降りたばかりの列車の「別の車両」に乗った。僕も男が乗ったの隣の扉から続いた。
再び列車は走り出した。
乗客をかき分け、再び男を目にした時、この男は黒だと確信した。
先ほどと同じように男は両手に吊革を掴み、股間は別の女性のお尻に密着していたのだ。
ふざけるなと言われるかもしれないが、こんな明らかに黒な状況でも僕は捕まえるという行動に踏み切れなかった。
状況は先ほどと変わらない。巧妙?にも男は言い逃れできる範囲でしか体を触れさせない。女性からの助けを求める行動はない。(そもそも僕に気づいていない)
目の前で明らかに痴漢(的行為)がされてるのに何もできない歯がゆさに段々自己嫌悪が強くなる。
決定的ななにかしているわけではないけど止めるか?とりあえず女性に声かけるか?どうしよう?どうしよう?と何もできないでいるうちに、列車は赤羽についた。
どっと乗客が入れ替わる。男も降りた。とりあえずあとをつける私。また別の車両に移動して再び乗る男。そして女性の背後に。
決心した私は行動を起こした。