2017-03-30

同僚が精神を病んだ

同期がきつい現場で順々に精神を病んでドロップアウトしていく。その同期の仕事は誰が巻き取るか。残された俺だ。大変だ。でも、精神を病むってほどでもない。俺は、精神を病まない。きつい現場と書いたけど、俺からしたらきつくない。ちょっと忙しいかなくらいだ。

同期には、ゆっくり休んでほしい。本人は辛かろう。もう俺がけろっとしてることすら、今の奴にとっては辛かろう。他がけろっとしている姿を見ると、自分が弱い気分になる。弱い気分になると、ろくなことがない。でも、魔法使いが打撃食らって死んだって、弱いことにはならんのだ。逆に、打撃で倒れんからといって、誇れることでもない。世の中は、うまくできている。

ただ、俺はこういう時、妹が風邪学校を休んだ日を思い出したりする。妹は、高熱で苦しんでいる。大変だ。でも、俺は学校を休めていいなあとか思ってしまう。本人は辛いだろうが、ちょっと羨ましい部分もある。そういう気分だ。俺だって大丈夫なだけで、痛みがないわけじゃない。休めるなら休みたい。

いや、違うか。違うな。実は、そんなに切実に休みたいとも思ってない。俺には「精神を病む」という手札がないので、純粋に手札が一枚多い奴を見て、ちょっと羨ましいんだと思う。俺のデッキに入ってないキラーカードを持っている奴を見て、「うおお、なんだそのカードは」と思っているんだろう。俺の通っているショップでは、そんなカード出たことがない。

妹に対しても、そう感じたことは何度かある。奴のデッキには「長男ではない」「末っ子である」という恐るべき強カードが入っている。何度母から「お兄ちゃんでしょ」というマジックワードねじ伏せられたかからない。もちろん俺のデッキしか入ってないカードもあるので、妹も同様に羨ましがっていたかもしれんが。隣の芝生は青いものだ。だから、俺らは素直に青い芝生を羨ましがっていたのだと思う。

今も、そんなかんじだ。当然のごとく俺が奴の仕事を引き継いでいるが。誰かから「お兄ちゃんでしょ」と言われている気分だ。あのかんじにすごい似ている。頑丈なので、なんとなく俺にダメージが降ってくる。俺なら耐えられるという理由で。奴らは精神を病むことでSOSの声をあげられるが、俺は俺の大変さをどうしたらいい。一枚少ない手札で考える。「解せぬ」と思う瞬間が、なくもない。

こうして羨ましいと思うこと自体が奴の負担になるのかもしれんので、難しい。まあ、ケツ持ちしてダメージ引き受ける人間特権として、ちょっと愚痴は許してくれるとうれしい。これが俺の辛さだ。倒れ方がわからんので、多分最後までこんなかんじだ。大丈夫。なんとかする。あまり気にするな。

妹が風邪で休んだ日、俺はよくスーパーアイスを二本買ったものだ。それは風邪をひかず健康である負い目みたいな部分もあるし、結局俺は妹のことが好きだったんだと思うし、兄貴というのは弱っている妹にアイスくらい買ってやるものなんだと思っていたような気もする。もし、あいつの負担にならないようなら、慰労会くらいしてやりたい。元気になったら、また一緒に仕事がしたいとも。

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