推しが結婚をして数年経った。
私は相変わらずリア恋おたくを続けている。
既婚者への恋は不毛と聞くが、相手が鳴かず飛ばずの舞台俳優ともなると、不毛どころか地獄である。
私は推しのおたく歴6年ほどで、出演舞台に全通したり、毎公演長ったらしい手紙を持っていったり、プレゼントボックスにしょうもないプレを投げ込むだけのささやかなおたくだ。
推しの奥様は女優で、かつかなりの頻度で推しと共演するため、推しの舞台に全通するということは、それだけ奥様を見るということでもある。
推しがツイッターに上げる◯◯が見に来てくれました!という写真にはその◯◯君を挟んで推しの反対側に奥様がおり、奥様のツイッターには後輩と戯れる推しが写った写真が投下される。
ささやかなりにリア恋おたくであるので、推しが別の女性にデレデレな様を見るくらいなら死んだほうがマシなのだが、死にたくないという気持ちよりも推しの姿見たさが勝り、推しと奥様のツイッターをチェックし、予想通り死ぬだけである。
薄目を開けるなどしてなんとか推しの姿だけを見ようとしても、写真と同時に呟かれる非リア恋おたくな友人たちの「夫婦かわいい!」「□□と▲▲尊い;;(□□、▲▲には共演した舞台の役名が入る)」というツイートまでは避け切ることはできず、おめーらはりあこじゃねーからいいけどよ!!!と声にだけ出して(ツイートはせず)そっと画面を閉じる日々である。
推しに認知されており(ひとえに多いとは言えない推しのファン人口のおかげではある)何十回も接触しているにも関わらず、私は巷で見かける #推しに言われたこと タグのような気の利いたことが一つも言えない。
忘れもしない数年前の初春、その日の接触も推しを前にろくろく舌も回らずどもり続けていると、推しが「そうだ!」と言って裏へ行ってしまった。
生粋のネガティブなのでプレでも突き返されるのか(推しは善良な人間なのでそんなことはしない)と最悪の想像をしていると、
推しが奥様の腕を引いて戻って来て、
「この人が☆☆さん!」と、推し。
「✖✖がお世話になっております!」と奥様。
「ともどもよろしくお願いします!」と、推し。
世間広しといえども推しに配偶者を紹介されるリア恋おたくは珍しいと思う。
動揺しておりその後の記憶は無い。
私は推しが結婚してもリア恋を続け、推しに奥様を紹介されてもリア恋を続けている。
リア恋と自称するからにはできれば推しと付き合いたいのだが、万一願いがかなってしまうとそれは不倫であり、リア恋とは別種の地獄へお引っ越し、というだけのことである。
それでも私は引っ越しがしたい。