毎週木曜日、職場から少々離れたところにあるコーヒーの自販機で行われるメンテナンスを見ることが、私のちょっとした楽しみだ。
エンジニアの端くれとして、普段はお目にかかれない機械の内部をのぞくのは、それが"マシン"である限りどんなものでも心が踊るものだ。ましてや、その機械を弄るメカニックが軽巡長良型の可愛い(たぶん)溌剌系姉ちゃんなら尚更。
缶コーヒーに迷うふりをして、ちらちらと横目に眺める正味1-2分は一日のスタートを切るには最高のひと時だ。彼女がメンテナンスを行う木曜日の10-11は、ヤニでうっすらと汚れた休憩室がオアシスに変わる。彼女は乾ききった男やもめの研究棟に湧いた水に違いない。
彼女の容姿だけではこんなに愉しい気持ちにはならなかっただろう。ここまで盛り上がれるまでになったのには、個人的なとある発見があった。
あれは二ヶ月前のこと、この頃はちらっと眺める程度だったのだが、ちょうど彼女が後ろに下がったところで接触してしまった。頭を下げてすみませんと向き合ったところで、たまたま、はねたコーヒーが所々染みをつくる作業用手袋が目に入った。
『この染みの色がもう少し濃ければ、重油で汚れているように見えないか?』
その瞬間、私の脳裏に爆雷が投下された。彼女は機関部で外国製の変速ギアのメンテに一人奮闘する女子メカニックなのかもしれない。川内が出ないと半泣きになりながら2-2を繰り返していた私が、その設定から、長大な脳内プロットを書き起こすまでさほどの時間は掛からなかった。彼女が海軍の機関学校を卒業し、沈みゆく船と最期を共にするまで。その最期を思い浮かべた瞬間、私の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
設定とは、かくも力強いものだろか。妄想するようになってから木曜日が待ち通しくてたまらない。工廠から我が艦娘が一日をかけて修理されようが、一週間の長さに比べれば短いもの。
今日も今日とて、眺めていたら、何を思ったのか彼女から声を掛けられた。試飲させてくれるという。観音開きのまま、言われるがままにボタンを押すと初めて動いているところが生で見られた。蓋をつけて手動で渡してくれた。燃料缶が心強い。そんなことを思いつつ、お礼を言って後にした。