2011-02-05

惑星Xに飛来した異星人の調査報告

惑星Xに飛来した異星人が、今朝、息を引き取った。

飛来した当初から酷く衰弱しており、長くはないだろうと思われたが、医療班の懸命な処置により、どうにか意思疎通が可能になるまで生き延びてくれた。

彼の話してくれた内容と、持っていた文献から、彼ら種族が滅亡に至るまでの歴史が判明したので、ここに調査記録としてまとめる。

彼らの生態は、我々となんら変わるところがない。二足歩行で、炭水化物たんぱく質栄養源とし、頭脳も明晰。

惑星自然環境も、かなり似通った場所である

しか惑星歴史は、皮肉に満ち溢れたものだった。

彼らの惑星は、資源環境に恵まれており、最初の頃、豊富資源をみなで分け合い、慎ましく暮らしていた。

彼らは繁殖し、資源が少なくなってくると、農耕や牧畜を覚え、資源を生み出す術を編み出した

知能は進化し、この頃から階級が生まれ、闘争が始まった。

彼らは、資源土地、時には思想をめぐって争いを繰り返し、多くの血が流れたが、滅亡に至る程ではなかった。

長きに渡る戦いの中で、疲弊した彼らの中に、争いの無意味さを説くものが現れた。

小さな運動はやがて大きなうねりとなり、争いは終結した

争いが終結した惑星では、著しい文明の発展を経て、激しい貧富の格差が起こった。

持てる者は持たざる者から搾取する世界だった。

そんな日々も、長く続いたわけではなかった。彼らには、慈愛の心が芽生え始めたのである

少しずつではあったが、格差は縮まり、貧しい者達は救われ始めた。

この頃から無意味競争はなりを潜め、種族としての繁栄を目指すようになった。

文明、特に、医療文明は大きく発展した長寿が当たり前となり、病気で死ぬものも殆ど居なくなった。

貧富の格差もない。理想的な世界が構築された。

だがそれは同時に、緩やかな滅びの始まりでもあった。

惑星にある資源が底をつき始めていた。

人々は懸命に、資源を増やす方法を模索したが、惑星人口の増殖速度にまるで追いついていなかった。

貧富の格差が無くみなが幸せ暮らしていた世界は、貧富の格差が無くみなが平等に飢える世界へと変貌した

綻び始めていた。

崩壊は一瞬だった。

みな、自分の愛するものを守るために、必死だった。

かくして、一つの種族が滅んだ。飛来した彼は、初め妻と一緒にUFOに乗っていたのだというが、船内にそれらしき者は居なかった。

彼らが滅んだ原因は、ひとえに、深過ぎる慈愛にあったように思う。

みなの生活をより良くしようと、みながより幸せに生きようとした結果、彼らは全てを失ってしまった。皮肉なものである

だが、彼らはどうすれば良かったのか。

私は結論を出せない。

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