私たちの人生が変えられた日から、もうすぐ30年もの月日が経とうとしている。
私とバカ男子は入籍して5年ほど、それぞれ別々の生活を送り、独り身のような身軽さを楽しんだ。
その後どういう経緯か忘れたが私は職場を辞め、向こうでバカと二人の生活を開始した。
バカの子にしてはとても聡明で、私の子にしては素直でかわいい大事な一人娘。
(もちろん娘の前でヤツを「バカ」なんて呼ばないよう注意していた)
この子が成人した日、私はバカとの結婚が強制婚によるものだったと告白した。
意外にも彼女の反応は薄く、「ふーんそうだったんだ」程度。実物の婚姻届を見せてみると、「目にやさしくない色だね」と言った。
「強制結婚制度」が廃止になってからもう十数年になる。当時あったような世間の見方はだいぶ薄れていたのだろう。
ひょっとしたら娘は前から知っていて、私を気遣い気にしない風に装ってくれたのかもしれないが。
どこかの誰かによる気まぐれか明確な意図によって、私は赤い婚姻届と対峙するはめになった。
「同じクラスのバカ男子」は「バカ夫」に変わり、やがて「バカ父」になって私たちの前から去った。
実は数回「元バカ夫」になりそうな事態もあったが、娘はほんとうに聡明だったし、私は寛容さを身に着けた。
なによりバカと結婚することがなければ知ることのなかったものが沢山ある。
ほんのり汗を滲ませながら、ゆるい坂道をのぼっていく。娘には少しきつそう。
無理しないで下で待っててと言ったのに「大丈夫大丈夫。父さん拗ねるだろうし(笑)」とついて来たのだ。
あーあ、もう少しで「バカジジイ」に昇格するかもしれなかったのに。
惜しかったよねぇなんてアホなことを話しながら、ヤツがぐーすか寝ている場所に冷たい水をかけてあげる。
謎が残ったままなんて落ち着かないよ、と直線的にカットされた石に向かってつい零してしまう。
平均寿命までもうしばらくあるけれど、私はもう現世で結婚することはないだろう。
今になって思えば、全ての始まりであるあの婚姻届が赤色だった理由が、ちょっとだけわかる気がする。
せめてあと10年、一緒にいたかったなあ。私たちの結婚を象徴する色の記念年まで。
そこまではさすがにあの紙も強制できなかったけれど。
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割と肯定的なコメントを残しててウケたw
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